それは、突然起きた。
「ねぇ、カス神。此処どこ」
「さぁ?」
数十分前。
紅茶神に御遣いを頼まれ近所のスーパーまで行く途中、いつもは気に留めなかった細い路地が妙に気になったクズ神、カス神はもしかしたら近道かもしれないと足を踏み入れ。
ものの数分で路地を抜けたものの、目の前に広がっていたのは赤い薔薇の群れと、白亜の城……まるで御伽噺か絵画でよく描かれているような景色だった。
無論、彼らが住む街にこんなものはないため、二人の表情は戸惑いの色に染まる。
「こういうときは元の場所に戻るのが一番じゃない?」
そう言って後ろを振り返るカス神だが、そこにあるのは路地の出口ではなく、薔薇の蔦が絡まっている白いベンチだけ。
「詰んだね、私たち」
弟の後に続いて振り返ったクズ神は肩を竦め、辺りを見回してみる。
「あ、人だ。いや、人間ではないかもだけど」
二人がいる薔薇園らしき場所から数メートルほど離れたところに立つ、白銀の髪の女がクズ神の目に入った。
カス神も女の姿を確認すると、「此処のヒトなら、元の場所まで案内してもらえるかも」と姉を見る。
「そうね、ちょっと声掛けてみようか」
「うん、行こう」
***
「と、いう訳なんですけど…」
双子は一通り女に事情を説明をし終えると、女は興味深げに金色の瞳で二人を見下ろした。
「成る程、それは災難だったな。しかし、ふむ…こんなところにまさか双子が迷い込むなんて、面白いこともあるものだ」
「?」
「?」
「嗚呼なに、独り言だ。気にしないでくれたまえ」
女は含みのある笑みを浮かべると、さらりととんでもないことを告げた。
「此処は、君たちが住んでいた時代よりもずっと昔…創世時代と呼ばれる時代だ。つまり、タイムリープといえば解るかな?」
「は…?そんな馬鹿なことってある…?」
クズ神の疑問は最もで、いくら二人が神であってもタイムリープなんて能力はないし、そんなことが出来る者も全く知らない。
しかし女は更に続けた。
「君のいう馬鹿なことが、君たちの身にいま起きている。これは紛れもない事実であり、ごく稀に起こること。故にそう心配することではないよ」
そうは言われても、二人にとっては初めての経験なわけで。
どうしよう?といった風に顔を見合わせる二人に、女はこうアドバイスをした。
「手をしっかり握り合って、目を閉じて。そして、元いた場所を鮮明に思い浮かべてごらん。幸い、君たちなら直ぐに帰れる」
クズ神、カス神は半信半疑で言われた通りに横に並んで手を握り合うと、目を閉じた。
路地の入口を脳裏に浮かべると、ぐらりと足元が揺れる感覚に二人は襲われたが
「そのままで。揺れが収まるまで目は開けないよう」
そう、女が言うのでぎゅっと目を閉じたままじっと耐えた。
「さようなら、稀有な運命を背負った双神よ」
遠ざかって聞こえる女の声。
揺れが収まると、二人は恐る恐る目を開き、元いた路地の入口が視界に移って安堵した。
「あら、全然時間経ってないんだけど」
腕時計を確認し驚いたように声を上げるクズ神は、ふと、先程聞いた女の言葉に首を傾げた。
「私たち、双子とは言ったけど神とは一言も言ってないよね」
「うん、言ってないね」
「どうしてあの人、分かったんだろ」
「…確かに。あの人も神だったとか?」
狐につままれたような、何とも言えない気分になりながら御遣いを再開すべく、二人はスーパーへと向かったのだった。