英国、ローウェル邸。

 

庭に設置してある白い丸テーブルにティーセットと菓子を広げ、ヴェロニカは優雅に一人茶会を楽しんでいた。

 

「さて、孫たちにはああ言ったが…直ぐに見つけてしまうかもしれんなぁ」

 

先日、日本の別邸に住んでいる三人の孫の一人、フェリシアの質問を思い出してはふふ、と笑い声を漏らして紅茶を啜った。

 

「あの時は、“もしかしたらエリスが送り届けた者はお姫様かもしれん”と言ってしまったし、事実、そうだったのだろうが…」

 

ティーカップをソーサーに置いて、独り言を続ける。

 

「今、あの子たちが此方へ戻れば…そろそろ当主争いをせねばならなくなる。私はウォーレスとフェリシアが互いに足りぬところを補い合って当主になれば良いと思っているが、一族の多くはハンナ御姉様と同じ黒髪だという理由だけでエリスを推している」

 

その昔、ヴァンパイアの王にしてローウェル一族最初の当主だったヴァンパイアは、深い夜の闇を思わせる黒髪に深紅の薔薇を映したような瞳を持つ、美しい女だったと記録にある。

 

その女は領主として人間の地を豊かにし、また、ヴァンパイアたちの頂点に君臨する女帝として夜の世界を絶対的な力で支配していた。

 

しかしそれは恐怖と暴力によるものではなく、圧倒的な知識力と行動力、話術、多くの者の心を掴んで引っ張っていくカリスマ性によるものだったらしい。

 

そして一代目当主の後を継いだのは、彼女の性質を受け継いだ彼女の娘。

 

この娘もまた、夜を纏う女帝として数百年、君臨していた。

 

その後も、黒髪の者はずば抜けて一つは何か才を持って生まれたため、男であろうと“姫”と呼び、次の当主候補として祀り上げられるようになった。

 

ヴェロニカが当主になる前、順調にいけば分家のヴェロニカではなく本家の生まれであるハンナが当主になるはずだったが…その前に魔女狩りにあい、当主候補はヴェロニカしかいなくなってしまったため、現在まで彼女がローウェルの女帝を務めている。

 

そんなヴェロニカに三人の孫ができ、たまたま黒髪を持って生まれたエリスがここ数十年、一族の中で最も当主に相応しいと名が上がっているが、ヴェロニカは当主になりたいと幼い頃から努力し続けたウォーレスを推してやりたいと考えている。

 

「決して、エリスに能力がないわけではない。あの子は三兄妹の中で気配の感知能力が一番高いし、コミュニケーション能力はウォーレスよりも上だろう。…だけど少しばかり、優しすぎる節がある」

 

ローウェル一族は身内には非常に甘いことで有名だが、エリスは輪を掛けて甘い。

 

決してお人好しなわけでも、直ぐに誰かを信用するような人懐っこい性質でもないが、一度認めるとどこまでも甘い彼は一族間で“もしも”のことがあったとき上手く立ち回ることは難しいと、ヴェロニカは現当主としてエリスを見ていた。

 

その点で言えば、ウォーレス、フェリシアは必要な非情さを持っている。

 

「いっそ、御姉様が当主の座に就いてくだされば、私はこんなに頭を悩ませずに済んだのに……」

 

はぁ、と深く息を吐き出し、眉を下げて口元に笑みを浮かべた。

 

「まぁ、もう暫く孫たちには宝探しを楽しんでもらうとしよう。御姉様の所在を教えることは出来るけれど、それではつまらない。あの子たちが自分の力だけで御姉様を見つけ出すことに意味があるのだ」

 

 

 

 

 

 

紅茶のおかわりをとティーポットを庭に持ってきたメイド───オリビアは、“御姉様”という懐かしい響きに先日再会を果たした主人の顔を思い出し、頬を緩めた。