日本、ローウェル邸。
「フェリシア、パジャマパーティーやろ!」
リースベットの唐突な提案に、フェリシアは一瞬クッキーへと伸ばした腕をぴたりと停止させ、頭にハテナマークを浮かべる。
パジャマパーティーとは一体?
「あのね、学校のお友達に教えてもらったんだけど。お友達の家にお泊りして、夜、パジャマでお菓子食べたり遊んだり、恋の御話したりすることをパジャマパーティーって言うんだって!」
「……、それで、私とパジャマパーティーがしたい、と?」
「うん!…だめ?」
子犬のような目でじっと見つめられ、フェリシアはクッキーを摘まむと二つ返事で「いいわよ」と返した。
可愛い友人の提案を否定する気など、彼女には端からない。
リースベットは花が咲いたように顔を綻ばせ、触覚のようにぴょんと生えている、アホ毛のようなものをひょこひょこと揺らしながら紅茶を啜った。
***
三日後の夜。
パジャマに着替えた二人はフェリシアの寝室でベットに並んで座ると、お菓子を広げて「同じクラスにいる友人たちが面白い」とか「この間のテストは自信がある」だとか、他愛ない話をした。
「フェリシアは好きな人とか、お付き合いしてる人はいるの?」
「いないわ。そういうリースはどうなの?」
「え…!んと…その、恋人はいるよ。格好良くてね、優しくて…大好き」
「ふふ、そうなの。良い人に巡り会えたみたいで良かった」
照れたように俯くリースベットの頭を一撫ですると。
フェリシアは一拍間を空けて「あのね、リース」と彼女を見た。
「……前に、お姫様を探しているって話したこと、あったわよね」
「ん?うん、フェリシアのおばあちゃんが書いた本の中に出てくる、ローウェル家のお姫様だよね?」
「そう。……実は、見つけたかもしれなくて」
「ええ!すごい、やったねフェリシア!」
我がことのように喜ぶリースベットだが、あまり嬉しそうではない様子のフェリシアに首を傾げる。
「どうしたの?」
「……。私たちが日本に来たのは、お姫様を見つけるため。その目的が達成されれば、私たち兄妹は英国に戻らなくてはならない。そういう約束なのよ」
だからこれまでのように二人でお茶会をしたり、遊んだりは出来ないし、簡単に会えない。
そう、告げようと口を開く前にリースベットは
「じゃあ住所教えて?いっぱいお手紙書くから!ばあやお手製のお菓子も送るし、あと写真も!フェリシアもお手紙書いてくれると嬉しいなぁ。あ、でもでもメールの方がいっぱい御話出来るし、普段はメールにしようかな」
楽しそうに笑った。
てっきり寂しがって泣くかと思っていたフェリシアは驚いたように僅かに目を見開くも、こくりと頷いて微笑む。
「そろそろ寝ましょう。人間は夜更かししちゃダメよ」
「え、もうそんな時間!?楽しい時間ってあっという間だよね…」
「そうね。でも明日も一日一緒に遊ぶんでしょう?だったらそれに備えないと、ね?」
「はーい。おやすみなさい、フェリシア」
「おやすみ、リース」
日本に来てから昼夜が逆転し、夜更けだというのに寝息を立てぐっすり眠っているフェリシアの寝顔を眺めながら、リースベットは呟く。
「本当は、すごく寂しいよ。でも、離れていてもお友達じゃなくなるわけじゃないし、フェリシアは私を忘れないでいてくれるって分かってるから、我が儘言わないよ」
「嗚呼でも、一年に何度かは会いに行っちゃうかも」
起こさないように小さく笑って、リースベットもそっと目を閉じた。