■終章
目を開けると、青い薔薇が咲き乱れる場所にいた。
「嗚呼…私は死んだのか」
こんなにも美しい景色を彼女は見たことがない。
だから此処は死後の世界なのだと、そう思った。
しかしどうやら少し違うらしく、一人の青年が薔薇の楽園の中に佇んでいた。
彼はハンナの存在に気付くと、呟くように言う。
「最後まで自分を見失わずに生き抜いた君は、神として生まれるに相応しい。何かを守る“外道”の神として、今度はもっと君らしく伸び伸びと生きてね」
ぶわりと、風が吹いた。
彼女がその夢の最後に見たのは、舞い上がる薔薇の花びらの青と。
どこか見覚えのある、懐かしい彼の人の微笑みだった。
***
「………」
いつの間にか居眠りをしていたらしい。
机に突っ伏した状態でいたゲドウ神はゆっくり身体を起こすと、
「オリビア。オリビアはいますか」
ふわふわする頭を振って、自分に仕える専属のメイドの名を呼んだ。
が、当然ここは霧谷家のリビングなのでかつてのメイドはいない。
直ぐにそのことに気付くと、先程見た夢のせいで記憶が混乱しているのだろうか、と苦笑し冷めきったティーカップに腕を伸ばした。
「………!」
紅茶の水面に映る、白銀の髪の青年。
神祖に似ているが、どこか違うその青年を凝視していると
「あ、先輩起きたんスね。…って、どうしたんスか?そんなにカップ覗き込んで」
何処かに出掛けていたらしいリピート神がリビングに入り、彼女の傍に寄って来た。
「ん?嗚呼、いえ、何でもありませんよ」
リピート神に微笑みかけてまたカップに視線を移すと、そこには彼女の顔が映っていた。
「……寝惚けていたようですね」
ぼそりと呟けば、ゲドウ神は立ち上がって「そろそろ深夜が帰って来る頃でしょうか。出迎えに行きましょう」とリビングを後にする。
「あ、待ってください。俺も行くッス!」
リピート神も彼女に後に続いて、リビングを出たのだった。