正午過ぎ。
「これより、魔女を処刑する!」
磔にされたハンナは、数日前まで赤薔薇の騎士として守って来た民衆の眼前で火炙りにされるのを静かに待っていた。
否、待ってなどいなかったが一度魔女と疑われれば誰であってもこうなることをハンナは知っている。
ならばもう、諦めてしまった方が良いのかもしれない、そう思っていたのだった。
しかし。
「ハンナ=ローウェルが率いていた魔女たちは、既に我らが神に変わって粛清した!あとはこの女を聖なる炎で清めるのみ!」
「……!」
(私が率いていた魔女たちって、まさか…)
裏の仕事の部下たちが頭を過るが直ぐに首を振って
(……私が殺したようなものですね)
自嘲的な笑みを浮かべ、静かに目を閉じた。
火がつけられると直ぐに彼女の足の先から火が伝い、全身を包み込むように燃えていく。
高熱の炎は最早熱いなどというものではなく、身を凍らせる氷のように冷たく感じるハンナは気が狂いそうになりながら頭の中で
寒い寒い寒い寒い寒い寒い!
と繰り返し叫んでいた。
―――――そのとき。
「ハンナ=ローウェルは魔女ではない!」
聞き覚えのある男の声が彼女の耳に届き、頭の中の絶叫がぴたりと止む。
黒いフードを目深に被っているため顔は分からないが、声からして男だろう。
フードの男は小太りの男の腕を掴んで
「……フローラ=シルヴェスターは魔術協会から魔導書を代理人に購入させ、筆跡師にハンナ=ローウェルの名を書かせ罪状をでっちあげた、醜悪な魔女である!この者がその筆跡師だが、犯行を認めている!よって、フローラを火炙りの刑に処すべきだ!」
そう、訴えた。
突然上がった名に、集まっていた人々はどよめき、当のフローラは狼狽えて「何よ、悪いのはハンナなんだから!」とフードの男に向かって叫んでしまう。
異端審問官たちは“魔女”の疑いがたったいまここでかかったフローラを素早く拘束し、魔女の塔へ連行しようと動いた。
(……私は、彼女のせいでこうなっているのか。彼女のせいで、部下たちを…)
泣き喚き必死に抵抗しているフローラを眺め、ハンナは内側からふつふつと湧き上がる憎悪に心を燃やした。
だが。
(……いい気味だ、と嘲笑ってやれば良いのかもしれない。だけど、…彼女は私の、たった一人の親友なんだ)
ハンナは苦悶の表情を浮かべ、朦朧とする意識のなか口角をあげて力の限り叫んだ。
「よく聞け!純情なその女を誑かし、魔導書を買わせ!魔女に堕としたのはこの私だ!全く、あっさり私に惚れこむとはなんと愚かしい!あはははは」
喉が焼けるように痛み、上手く声が出せない。
それでも、ハンナはせめて幼馴染だけでも救えれば、と叫び続ける。
「そこの者が何を知っているかは知らないが!今ここで哀れなその女まで魔女として捕らえ殺せば、お前たちはこの私と同じ魔女…いいや、外道になるぞ!」
炎の中ですべてを嘲笑うようなその叫びに人々は畏怖し、思わず異端審問官はフローラの肩から手を離す。
「分かったら…彼女を解放、しろ…!私を、魔女として裁け!」
最後の力を振り絞り、吐き捨てるように言うと。
ハンナは今度こそ目を閉じ、そして息絶えた。