(! ) これより先、残酷描写有り。
■五章
爪を剥ぐ。
苦しみの時間を長くするために、一枚一枚丁寧に。
剥がした箇所は、じわりと赤い華が咲く。
その様を眺めながら、ハンナは奥歯を噛み締めて痛みに耐えた。
既に足の爪は剥がされ、指も残すはあと一枚となったとき、異端審問官は問う。
「もう一度問おう。貴様は魔女か」
「いいえ」
魔導書も悪魔も知らない、自分は無実だと自信を持って言える。
だから、最後の一枚を剥がされても彼女は声を上げずに耐え切った。
しかしこれで終わるほど魔女の取り調べが甘いモノでないことを、ハンナはよく知っている。
「流石は、誇り高き騎士であっただけのことはある。だが、いつまでそうしていられるか」
そう言って次に異端審問官が用意したのは、火で熱した数本の釘。
「最も残酷な“取り調べ”方法だと言われているが、貴様ならばこれも耐えられるだろう?」
拷問台の上にハンナを寝かせて足首と手首を装置に縛りつけると、熱した釘を容赦なく右肩に刺した。
「ッ…」
続いて、左肩。右の太もも、左太もも。
「魔女であると認めれば、今すぐにでも貴様を苦痛から解放してやろう」
「…ッは、誰が認めるものか。私は魔女ではない…!」
「………、良かろう」
ハンナの腹の上に釘と金槌を構え、勢いよくソレを突き立てた。
「ッぐ、ぁ…」
柔らかな腹から赤い血液が溢れ出て拷問台へ流れていく。
あまりの激痛に一瞬呼吸が出来なくなり、ひゅっ、と彼女の喉が鳴る。
それからすぐに「かはッ」と肺の中に残った酸素を一気に吐き出し、苦しげに咳き込みながら呼吸を再開した。
異端審問官はハンナの両腕と両足を解放すると、壁際の台に置かれていた鉄釘の首輪を彼女の首に嵌め、
「他の魔女共の取り調べもある、貴様は一旦牢で大人しくしていろ」
そのまま塔の地下牢にハンナを閉じ込めた。
「…下手に動くと、内側の針が首に刺さりそうですね」
はぁ、とハンナは盛大に溜め息をつくと、何故フローラがあんなことを言い出したのか、あの魔導書は一体どこから出てきたのか…全身の痛みから意識を逸らそうと次々と浮かんでくる疑問について思考し、一夜を過ごした。
***
それから二日後。
鉄釘の首輪のせいで眠ることも楽な姿勢で座ることも出来ず、疲労と猛烈に押し寄せてくる睡魔に抗いながらゆらゆらと揺らめく鉄格子をぼんやりと見ていると。
「……貴様、やはり魔女だな!?」
いつの間にいたのか、牢の錠を外して彼女の腕を掴んだ異端審問官は鬼の形相でハンナを見下ろし、外へと連れ出した。
「だから、私は魔女でないと何度言えばわかるんですかね」
「黙れ!貴様が魔女でないというなら何故体の傷が殆ど修復している?」
「そんなの、私が知りませんよ」
「まだシラを切るか!良いだろう、では認めたくなるようにしてやる」
首輪を外されると椅子に縛り付けられ、口に漏斗が押し込まれる。
そして異端審問官は鼻をつまみ、大量の水を漏斗に流していった。
「んッ…グッ…!」
息苦しさに咽せても絶えず流れてくる水に溺れそうな錯覚を覚え、ハンナは酸素を求めてもがこうと体をよじったが、がっちり椅子と身体がくっついた状態で身動きが取れない。
数分、水を流し込んでから喉の奥まで押し込まれていた漏斗を抜くと、部屋の隅で待機していたらしい筋肉質の大男を呼び
「やれ」
異端審問官は指示を出した。
「ッ……!」
無抵抗の“魔女”の腹を殴る。蹴る。
そうやって水を吐き出させ、異端審問官はまた彼女の喉奥まで漏斗を押し込み、水を流す。
何度も何度も、日が傾き夜が訪れるまで、繰り返した。
そうして、完全に意識を失うまで水責めの拷問を受けると、また牢に放り投げられ。
ここまでされて生きている女は見たことが無いと異端審問官たちは彼女を心底気味悪がり、翌日の正午、火炙りの刑に処してしまおうということで全員一致した。
***