結婚式当日。

 

ローウェル邸からさほど遠くない街外れの教会で、ハンナとオスカーは多くの人々に見守られながら誓いの言葉を交わし合い。

 

互いの指に指輪を嵌め込んだ。

 

「それでは、誓いの口づけを」

 

神父の声にオスカーは彼女の頬に手を添えて、唇を近づける。

 

触れ合いそうな距離まで顔が近付いた、そのとき。

 

「あの女は魔女よ!」

 

誰かが、教会に飛び込んできてそう叫んだ。

 

声の主に覚えがある二人は教会の入口で息を切らし、ハンナを凄い形相で睨んでいるフローラの姿を視界に捉えると顔を見合わせる。

 

彼女はまた叫んだ。

 

「ハンナ=ローウェルは!この魔導書を使って悪魔と契約し、スパイや裏社会の人間を殺していった!とんでもない魔女だったの!その女にみんな騙されていたのよ!」

 

「何馬鹿なこと言ってんだ!ハンナは魔女なんかじゃねぇ!」

 

人目も気にせず素のままフローラに詰め寄るオスカーと、一冊の古びた本を掲げてハンナを魔女と呼ぶフローラの姿に、人々は最初フローラこそ悪魔に魅せられ気が触れた魔女なのではとざわついた。

 

しかし、フローラは一番最後のページを広げて言う。

 

「ここに、あの女の筆跡で名前が書いてある!これが何よりの証拠よ!」

 

「……ッ、ハンナ」

 

見覚えのある、流れるように綴られた文字。

 

オスカーは半信半疑で、唖然としているハンナを振り返った。

 

「これ、御前の字に似てるんだけどさ。……まさか、御前魔術に」

 

「手は出していませんよ」

 

彼が言い終わるより先にハンナは否定する。

 

けれども、彼の青い瞳はもう、疑惑の色に染まっていた。

 

彼だけではない。

 

この場にいる、ローウェル一族以外の者たちは彼女を取り囲み、疑惑と嫌悪の目を向けて囁いた。

 

「前からおかしいと思っていたのよね…」

 

「一介の令嬢が女王陛下から特別な称号を賜るなんて、普通ないことだしな」

 

「その若さで騎士長、というのもなんだか、なぁ…」

 

「ちょっと人間離れしてるっていうか…」

 

「嗚呼、ちょっと気味が悪い」

 

「魔女だ」

 

「きっと、こいつも魔女だ」

 

「魔女は根絶やしにしなければ」

 

「殺せ、災厄を招く前に」

 

「聖なる炎で焼き尽くせ!」

 

囁きはやがて一つの大きな悪意の針に形を変え、彼女を突き刺していく。

 

こうなってはもう、ハンナがどれだけ否定しようとも彼等に声が届くことはないだろう。

 

ぞわりと肌が粟立つような感覚、込み上げてくる吐き気。

 

ハンナは自分の身に何が起きているのかは理解しているものの、何故こうなったのかはわからずにフローラを見やる。

 

そのとき、くすりと笑う青年がフローラの後ろに見えた気がしたが、瞬きをしたときにはもういなかった。

 

「ハンナ=ローウェル。魔女の疑いで魔女の塔まで連行する」

 

騒ぎを聞きつけた異端審問官は、動揺し何も言えないハンナの腕を縛ると、引きずるようにして教会の近くにある魔女を繋ぐ”魔女の塔”へと連れて行った。

 

 

 

 

 

 

翌日から、彼女は取り調べという名の拷問を受けることになる。