「誇り高きゲドウ神様、どうかこの女帝の名に免じ怒りの矛をお納めください。彼の者を殺さず捕らえよと、天上に御座す神祖が私めに告げられたのです」
万が一に備え白いステッキを構えながら、久方振りに相まみえたローウェル一族のハンナ、ではなく外道の神に向けて言葉を紡ぐ。
ゲドウ神は暫しじっとヴェロニカの瞳を見つめると、やがて目を伏せ「……私のモノが傍に戻ってくるなら、それで良い」と独り言のように呟いてリピート神を一瞥した。
彼を見る彼女の瞳はもう、ボルドー色に戻っている。
体を覆っていた影は地面に吸い込まれるように消え、魔法陣やゲドウ神の体を貫いた矢もいつの間にか失せていた。
得体の知れない何かの縛りが解けた奏は即座に逃げようと踵を返したが、戦神にあっさり特殊な縄で拘束されてしまい忌々し気に小さく唸りながらもがく。
そんな奏の様子には興味も何も示さず、ゲドウ神は壁に凭れかかっているリピート神の元へと一歩踏み出した、そのとき。
「ッ……」
「先輩…!」
前のめりに倒れていく。
その腕を何とか掴んでゲドウ神を抱き留めると
「本当に、無茶なところは相変わらずですね、ハンナ御姉様」
ヴェロニカは苦笑いを浮かべた。
ゲドウ神もまた同じように苦笑いを浮かべれば、目蓋を閉じる。
多くの血を流し、膨大な魔力を消費したせいかそのまま彼女は意識を手放した。
「あーあ、今回も失敗か。本当、嫌になっちゃうよ」
陽光に照らされ宝石のように輝くステンドガラスを背に、奏はいじける子どものようにぼやいた。
慌てて戦神が握る縄の向こうに一同は視線をやると、先の戦闘でボロボロなった奏が拘束されている。
「悪魔が二人、だと…?」
「いーや、俺は一人だよ。御前がぐるぐる巻きにしてるソレはただの泥人形さ」
「!」
奏が指を鳴らすとソレは崩れ、形を失い地面には小さな泥の山が出来上がる。
「計画が狂ったけど、次の下準備は出来たし…俺はそろそろ退散するよ。じゃあね」
ひらりと手を振る彼の側で空間が歪み、ゆらりと現れた緑の扉に手を掛けて、暗闇の中に飛び込んでいった。
扉が消えるのを確認すればヴェロニカは戦神とリピート神に声を掛ける。
「貴殿等、私たちも急いでここを離れるぞ。直、天上界から使者が来る」
「使者って、天使ッスか?」
「嗚呼。…神祖の計らいで、今回の事は不問となるはずだが」
ちらりとリピート神を見てから続けた。
「“そういう性質”でない神がこれだけの人間を殺したとなると…な。事情聴取くらいは取られるだろう。だが今貴殿が天上界へ行けば、また御姉様が無茶をしかねない。だからとりあえず、御姉様が目を覚まし回復するまでは我が屋敷にて身を潜めると良い」
「………、分かったッス」
殆ど体の力が戻って来たリピート神は頷くとゲドウ神を背負い
「それじゃあ、行きましょう。道案内、お願いしますッス」
教会の入口へと駆けて行った。
戦神、ヴェロニカもそれに続き、四人はその場を後にした。
それから数週間後、すっかり回復したゲドウ神は戦神とリピート神をローウェル邸に残し天上界へ赴いて、『人間の命を奪ったのはゲドウ神、理由はただの私怨。そこへ何事かを企んでいる様子の悪魔たちが現れたため、あくまでも正当防衛で悪魔を消滅させた。最古の悪魔は取り逃がした』と説明し。
納得いかない様子のリピート神と共に、日本の霧谷家へ戻った。
こうして、リピート神の失踪劇は幕を閉じたのだった。