ゲドウ神の反応に暫し何かを思案するように黙り込むと、ぽん、と手を打って奏は一人納得したように頷いてみせた。
「嗚呼、そっか。ヴァンパイアの家系だって知る前に死んだんだっけ、君。それじゃあそういう反応になるよね、うん」
「………」
何を馬鹿なことを、と吐き捨てようとして、しかし心当たりがあってか口を噤む。
「随分と余裕だな」
一体どこから出してきたのか、ゲドウ神の傍で黙って話を聞いていた戦神が突如突き出した長槍の刃先が、奏の頬を掠める。
無表情で長槍から戦神に視線を動かすと、すぐにまた「嗚呼ごめん、そういえば君いたっけ」と余裕のある笑みを浮かべて見せた。
「戦神とこうして顔合わせる事なんて滅多にないし、折角だからちょっと遊んでみたい気はするけど…また“あの人”の邪魔が入っても嫌だしね。そろそろ終わりにしようか」
奏がパチン、と指を鳴らして部下である悪魔たちに合図を出すと、いつの間にかゲドウ神、戦神、奏を取り囲むようにして悪魔たちは立ち、古の言語を用いて何かの呪文を唱え出す。
立ち込める焦げ臭さ、マグマがうねり流れる音がゲドウ神の耳に届いた瞬間。
「!」
彼女の足下から突然、火柱が噴き出した。
寒い熱い寒い寒い寒イ寒イ
アツイサムイサムイサムイサムイ!!
「アッ…アァァァァァァァアァア!!」
「ゲドウ神!?おい、どうした!…くっ、体が…!」
突然絶叫するゲドウ神の肩に腕を伸ばそうとするが、見えない鎖か何かで体を拘束され、戦神はその場に倒れ込む。
その間にもゲドウ神は自身を灼き尽くさんとする火柱の中で自我を失い、叫びながら胸中で勝手に浮かんでは弾ける単語の羅列を聞いていた。
「しっかりしてください先輩!…おいクソ悪魔!先輩に何しやがった!」
戦神同様、リピート神にも火柱は見えていないようで、彼女の身に一体何が起きているのか分からないまま奏を睨む。
「んー、ハンナにはちょっと過去を辿ってもらう必要があってね。今は火炙りにあってもらってる」
「過去を辿る…?てことは…」
「そ。順番的に、水責め」
パチンとまた指を鳴らすと、ゲドウ神は自身の首を締めながら咳き込む。
苦シイ苦シイくるしいクルシイ
止メロ止メロ止メロ止メロ!!
「まず漏斗を喉の奥に押し込んで、鼻を塞ぐ。で、大量の水を飲み込ませる。限界まで飲ませた後、腹を殴って吐き出させたらまた水を飲ませて…そんなことを延々と繰り返すなんて。いやぁ、拷問のあれこれを知っていると、人間って悪魔よりよっぽど頭がイカれてると思うよね」
血を吐き出しながら苦しげに首を絞めているゲドウ神を眺めながら肩を竦める奏を睨み続け、リピート神はどうにか彼女の傍に行こうと体を捩るが、未だに力が入らず舌打ちする。
(本来のゲドウ神ならば悪魔の幻覚に惑わされることもないのだろうが…銀の銃弾に特殊な細工が施されていたか)
「……ん、幻覚?」
もし彼女が幻覚に惑わされているというなら、自分を拘束するこの鎖のようなものもまた。
(アレの意識がゲドウ神にいっているうちに…)
あまり呪文詠唱は得意でない戦神だがそうも言ってられないと、自分の知る数少ない幻覚解除の呪文を呟く。
(よし…!)
一つ目は失敗したが、二つ目の呪文で幻覚は緩まった。
あと少しで完全に解除できる、そう息巻いたとき。
「うわ…妙なモノがハンナに呼ばれて出てきたかも」
思わず奏が零した独り言に、戦神は顔を上げた。