神々が薔薇屋敷を訪れる、少し前。
英国某所の教会周辺を取り囲むように茂みや影の中に潜む、無数の悪魔たち。
「…………」
その中に、無表情で教会の入口を見つめるリピート神の姿も確認出来た。
彼の瞳に光は無く、明らかにいつもの様子が違うことが少し離れた場所からでもよくわかる。
「異端審問官の子孫たちが集う集会、教会、……奴等、ゲドウ神の過去をどこで知ったんだ」
数百年前の今日。
この教会の前で、一人の女が異端審問裁判の末、魔女とみなされ火炙りにされた。
女の名は、ハンナ。
神祖の祝福を一番目に受けた、あのゲドウ神だ。
「……何をする気か分からないが、彼奴に知らせた方が良さそうだな」
戦神は呟き、悪魔たちに存在を悟られないよう気配を消して静かに飛び立った。
***
日本上空に入った戦神は、猛スピードで此方に向かって飛んでくる何かの気配を感じ取り、止まる。
「何だ…?」
覚えのある魔力、これは……
「……!ゲドウ神!」
自分の頭上を飛んでいく彼女が視界に映り、彼女の魔力だと気付いた。
名を呼びなが慌てて後を追い掛けるが、先程自分が通ってきた進路を辿るようにどんどんスピードを上げて行くため、腕を伸ばしても白い細腕を掴むことが出来ない。
「くっ…引き離されそうだ」
普段は抑えているその膨大な魔力を今は前面に押し出しているゲドウ神に何とか食らいつきながら、余裕などないはずなのに戦神は数百年前のことをふと思い出した。
(あの時も、こうして大切な者の元へ向かっていたな)
戦火の時代。
恐らくは生前の自分か、自分の部下に姿を重ね、加護を与えていた少女が敵兵に囲まれる未来を“視た”ゲドウ神が、今のように魔力を撒き散らしながら飛んで行ったことがあった。
当時の彼女はどこか荒々しく、鮮血の如く鮮やかな赤の瞳で戦場を見下ろしていたが。
時間が経つにつれ、瞳の色は赤からボルドー色へと落ち着いていった。
しかし、先程一瞬だけ捉えた彼女の瞳は、――――――。
「冗談じゃない、いくら戦の神と云えどアレをどうにか出来る自信などないぞ…!」
それでも、もしものときは自分が彼女の前に立って事を収めねば。
これ以上、彼女が“外道”に成り下がらないように。