「御身体はもう宜しいので?」

 

「………」

 

鮮明に、彼の声だけがゲドウ神の鼓膜の奥に響く。

 

周囲の音が遠くなり、まるで世界から二人だけが切り離されたかのような錯覚に彼女は陥った。

 

否、誰も二人を気にする素振はないため、本当に彼の“能力”で一時的に切り離されているのかもしれない。

 

クスリと笑うと、奏は独り言のように続ける。

 

「火災現場に偶然居合わせるなんて、災難でしたね。貴女は大きな火が苦手だろうに。……嗚呼、ところで」

 

妙に勿体ぶったように間を空けて。

 

「貴女のナイト、今英国にいるんですけど。どうしてだと思います?」

 

彼女が今一番知りたいことを、告げた。

 

「……、あの子に何をした」

 

「俺は何も。ただ、そうですね…強いて言うなら、貴女に関することが書かれた手帳を彼に渡しました。確か、その手帳は最後にこう締めくくられていましたね。“復讐するもしないも、アナタ次第”と」

 

「……ほう」

 

冷静を装うも、腹の内は黒い靄が渦を巻いて熱を帯び、今すぐにでも隣に佇む青年の胸倉を掴んでやりたい気持ちでいっぱいだが何とか堪える。

 

恐らくもう自分の正体に気付いているゲドウ神を見下ろせば、

 

「三時間後、貴女を火刑に処した教会に異端審問官の子孫が集会で集まります。貴女を愛してやまないナイトがこれを知っていて、貴女の代わりに復讐しようと考えたら?きっと、神である彼ならば、それも不可能ではないでしょうね」

 

歌うように語り、彼女の顔を覗き込んだ。

 

全て、ではないが大体のことが線で繋がりゲドウ神は立ち上がる。

 

リピート神を止めるために。

 

「……悪魔の戯言には乗せられるなと、教育しないといけなさそうですねぇ」

 

通り過ぎ様、奏…否、悪魔を一瞥すると薔薇屋敷を後にした。

 

「いってらっしゃいませ、お嬢様。ま、また直ぐに向こうで会うけど」

 

ひらひらとゲドウ神の背に向け手を振って見送ると、「さて、まだ少し時間あるし、仕事仕事」と指を鳴らし、空間を元に戻した。

 

そしてまた、何事もなかったかのように人間の皮を被り伊月 奏として使用人たちの中に溶け込むのだった。