ある日、フェリシアが小説を読む兄の膝上で微睡んでいたときのこと。
すぐ側から何かを燃やしたような焦げ臭さを感じてフェリシアは重い目蓋を開けると、外出していたらしいエリスがコートをハンガーに掛けているのが視界に入った。
「おかえり。近くで火災でもあったか」
兄、ウォーレスも臭いに気付いてエリスを見る。
「ただいま。えぇ、偶然火災現場の近くにいたので、ちょっと様子を見て来ましたが…結構燃えていましたよ」
「マジか。この時期、乾燥して火災が起きやすいからな。うちも気をつけねぇと」
「そうですねぇ。嗚呼でも、今回のは不審火だそうです。消防隊員がそう話しているのを聞いたので」
「へぇ、…この国も物騒だな」
そう言って肩を竦めるウォーレスを見上げると、フェリシアはゆっくり起き上がって
「……。車椅子に乗ったおばあちゃんが射撃場で銃ぶっ放してる英国も、結構…クレイジー…」
眠い目を擦り、大きく伸びをしながら言う。
「ふは、違いねぇ」
けらりと笑う兄につられてエリスも小さく吹き出すと、ふと思い出したように
「そうそう。現場の近くで体調を崩して倒れている女性がいたので、自宅まで送ってきたんですが…その…」
「ん?」
「…うまく言えないけど、すごく懐かしい気配がしたというか…初対面だけど、遠い昔に会ったことあるような感覚になって」
難しい顔をして、倒れていた女性のことを話した。
「……、その人、人間?」
「いや、その方も、その方の付き添いらしいお嬢さんも人間ではなかったです。…でも、人間に近いものは感じたので正直よくは分かりませんでした」
「そう。……、倒れてた人の特徴は?」
何を思ったのか、フェリシアは緩く首を傾ける。
「ええっと…長い黒髪で、左目にモノクルを掛けていました。ぱっと見、20代ですかね。あと、顔の造形や体格から見て恐らく日本人ではなく西洋系です」
「…他には、」
「うーん…嗚呼、あと相当魔力が強いようでした。…これくらい、でしょうか。あ、!」
「?」
「……付き添いらしいお嬢さん。正直凄く好みでした」
「……、分かった。Thanks」
最後のは聞かなかったことにして礼を言うと、ふわりと欠伸を一つして立ち上がり
「……、おばあちゃんに茶葉の催促、してくる」
廊下に置いてある、今時珍しい固定電話の元へ歩いていく。
彼女の背にウォーレスは「あ、じゃあ俺はばあちゃんが作る菓子の催促してるって言っといてくれ」と声を掛けた。
そんな兄を見てエリスは
「それくらい、自分で言えばいいのに」
呆れたように息を吐くのだった。
受話器から流れるコール音。
数秒後に一瞬ぷつり、とノイズが聞こえたあと、祖母―――ヴェロニカの声が響いてくる。
フェリシアはこちらで出来た人間の友人が愛らしいことや兄弟の様子、そしてエリスが言っていた火災のことを話した。
一通り話し終えると、最後にフェリシアは先程から気になっていたことを、祖母に訊ねるべく口を開く。
「………。おばあちゃん、御伽噺のお姫様のことだけど―――」