■五章
真夏の鋭い日射しは丸みを帯び、木々が鮮やかに色付いて来た頃。
修道女等が神への捧げ物として葡萄酒を作っていた。
一本、院長に頼んであいつの為に取って置けば、戻ってくるだろうか。
そんなことを考えながら窓の外を眺めるが、秋に彼女は戻らなかった。
吐き出す息は白に染まり出し、深々と雪が降り積もり世界もまた白に染まった頃。
雪を丸めながら考える。
もしこの雪だるまを見たら、あいつのことだ。
きっと「雪だるまというより、雪の化け物ですね」なんて言いながら愉快そうに笑うだろう。
大きな雪だるまは孤児院の門の前に、小さな雪だるまは部屋の窓際に置いてまた外を眺めるが、冬に彼女は戻らなかった。
柔らかな陽光の下で花がゆるりと目覚め出した頃。
外に飛び出し、孤児院の近くにある花畑の中で彼女を待つ。
けれども、春の優しい風は彼女を連れて来てくれなかった。
そうして、季節は巡り巡って。
十数年後。
16歳で孤児院を出たエドワードはそれから街の酒場を転々としたがどこも長く続かず、そのうち真っ当な職など諦め盗人としてその日をどうにか生きている状態だった。
この日も果物屋から林檎を掠め取り、人目も気にせず齧りついていると。
「……嗚呼、降ってきた」
ぽつり、ぽつり、雨が降り出した。
帰る家がある者は慌てて彼の横を走り抜けていく。
その様子をぼんやりと眺めていると、前からふらふらと覚束ない足取りで歩いて来た男と肩がぶつかり、酔っているのかその男は勢いよくエドワードの後ろで倒れた。
「悪い、大丈夫か」
倒れた男の傍に膝を折ると、手を貸そうと腕を伸ばす。
男は差し出された手を掴むフリをして、何事かを叫びながらエドワードに体当たりをした。
「っ……、何すんだ」
尻餅をついたエドワードは、まぁこんなことはよくあることだと、慣れたように立ち上がると服についてしまった泥を払う。
その態度がどうやら気に入らなかったらしい。
男は懐に手を伸ばし、自分に背を向けて去っていくエドワードに向けて何の躊躇いもなく引き金を引いた。
バァン。
鈍い銃声が聞こえたときには、うつ伏せに倒れていた。
人々は二人の様子を遠巻きに見ていたが、巻き込まれては適わないとそそくさとその場から離れていき、男も満足したのかいなくなったようだった。
「……っ、これは、罰なんだろう、な…」
ほんの少し動くだけで全神経が痛みを脳に訴え、警鐘を鳴らす。
(嗚呼、上手く呼吸ができないな)
それでもエドワードは何とか泥塗れになりながらも仰向けに転がり、雨空を仰いだ。
「……がはっ…はぁ、…ハン、ナ」
幼かったとはいえ、ゲドウ神に酷いことを言ってしまったことをあの日からずっと後悔していた。
心の中で何度も謝罪をしながら、巡る季節の中に彼女の影を探し。
けれども、あれから彼女がエドワードの前に現れることはついになかった。
「……おねがい、だから…っ…でてきて…」
(あの日からずっと痛くて仕方がないんだ)
縋るように、彼女を呼ぶ。
すると、そっと誰かに頭を持ち上げられ、膝の上に寝かされるような感覚がしたかと思うと、懐かしい声が耳に届いた。