■四章
院長と話をした、翌日。
空が白みだした頃にゲドウ神はそっとエドワードの部屋に忍び込んだ。
(この子どものこと、私を見るや否や“また来たのか”とうんざりした顔でもするのでしょうねぇ)
苦笑しながらベッドの端に腰を下ろすと、窓の外に視線を向ける。
(そういえば、孤児院に張った結界。留守にしている間に少し弱まってしまっていますね。あとで修復しておかないと)
ぼんやりと、そんなことを考える。
と、ゲドウ神の気配に気づいたのかエドワードは眠そうに目を擦りながらゆっくりと起き上がり、彼女の顔を見て………
「……!」
吃驚したように目を見開いたまま、数秒固まってしまう。
「久し振り、少し見ぬ間に顔色が良くなりましたね」
彼女の声にはっとしたようにエドワードは口を開こうとするが、
「………」
自分でも気付かないうちに溜め込んでいた、ゲドウ神が会いに来なくて寂しいという気持ちが、院長との約束や「おかえり」と言おうと決めていたことを頭の外に追いやり。
「……お前も、結局。おれの親みたいに、何も言わずにおれをおいてくんだろ…」
やっと出てきた言葉が、これだった。
我ながら可愛げがない。
そう自分で思うも、大人びているようで心は年相応の子ども。
「なんでっ、急に来なくなったんだよ…!嗚呼そうか、たまたまお前の暇潰しにおれが選ばれただけで、別にお前はおれじゃなくてもいいんだよな?おれにあきて、他の奴でも探しにいってたんだろ?」
ぐっと堪えていたものが内からどんどん溢れ出し、初めての感覚に溺れてしまいそうな錯覚を覚えながら必死に吐き出していく。
ゲドウ神はじっと、彼が吐き出し切るまで口を閉ざして聞いていた。
それが彼女なりの優しさなのだろう、しかしまだ幼いエドワードには大人の優しさなど気付くはずもなく、何も言わないゲドウ神にただただ裏切られたような気分になり、絶望の沼に心が沈んでいく。
「もうお前の顔なんか見たくない、二度とおれに話しかけるな!どっか行け!」
「……お前なんか、大嫌いだ!」
はぁ、はぁ、と肩で息をするエドワードを暫く見守っていたが、やがて、
「―――お前が、どこかに行ってしまえと願うなら。叶えましょう。私は神様ですからね」
初めて聞く、どこか申し訳なさそうな彼女の声がエドワードの頭上から降って来た。
エドワードが我に返って恐る恐る顔を上げたときにはもう、そこには誰もおらず。
本当に行ってしまったことに気付き、膝から崩れ落ちた。
「あ…っ、ちが、まって…やだ、ひとりはっ」
一人は、寂しくて痛いんだ。