■二章

 

 

 

翌日、太陽が沈むころに血と、炎によって何かが焼けた臭いを微かに纏わせてゲドウ神は現れた。

 

「やぁ、こんばんは」

 

気のせいだろうか。

 

声音は変わらないのに、いつもより目の赤は暗く、口元に浮かべた笑みは作り物に見える。

 

「……何かあったのか?」

 

時折冷ややかな視線をどこかに向けていることには気付いていたが、それを自分に向けてくることは今までなかったため、目の前で自分を見下ろす彼女の赤い目が少し恐ろしいと少年は思った。

 

彼の感情を察したのか、ゲドウ神は目を伏せくるりと背を向ける。

 

「別に何も。…そうそう、お前の名前を考えてきましたよ」

 

「え、本当に考えたのか…?」

 

正直物凄く期待はしていたが、本当にちゃんと考えてくるとは思っていなかったため少年は目を輝かせた。

 

「もちろん。昨夜考えると言ったでしょう。私はつまらない嘘は吐きませんよ」

 

少年に背を向けたままクスリと笑うと「エドワード」をゲドウ神は呼んだ。

 

「エドワード…?それが、おれの名前?」

 

「えぇ。幸福の守り手、という意味です」

 

少年―――エドワードは自身に与えられた名を気に入ったのか、何度も「エドワード」と繰り返し呟いて、ゲドウ神の正面に回り込んだ。

 

「…あ、あのさ」

 

「?」

 

「…ありがとう。あと、お前の本当の名前、教えてほしい。神様だとしてもちゃんとした名前はあるんだろ?」

 

素直に礼を言うと、エドワードはじっと彼女を見つめる。

 

ゲドウ神は片膝をついてエドワードと視線を合わせれば、今度はいつものように笑んで

 

「誰にも、私の名を明かさないと。約束出来ますか?」

 

「ん、約束する」

 

「……、ハンナ、です」

 

人であった頃の名前を、まるで魔法の言葉を囁くように告げた。

 

「名前の意味は?」

 

「はて、なんだったか…神の恩寵、とかそんな感じでしたね、多分」

 

「おんちょう…?よくわかんないけど、多分すごい意味なんだろうな。…二人でいるときはハンナって呼んでもいい?」

 

「構いませんよ。好きになさい」

 

ゲドウ神が頷くと、エドワードは心底嬉しそうに笑った。