■一章

 

 

 

18世紀、プロイセン。

 

初夏の日射しを避けるように、孤児院の裏庭に立つ木の一本に背を預けて昼寝をしている、赤い髪の少年。

 

目の下にはうっすらと隈が出来ているが、そんなことには気付いていないのだろう、修道女の一人が少年に声を掛けようと腕を伸ばした。

 

が、修道女の後ろから少年よりも幼い子どもの泣き声がし、慌てて腕を引っ込めるとそちらへと小走りで行ってしまう。

 

その様子を、木の後ろからひょっこりと顔を出して見ていた長い黒髪に片目だけモノクルをかけた女は、途中から狸寝入りを決め込んでいた少年に言う。

 

「話しかけられなくて良かったですね」

 

「………。またきたの、お前」

 

目は閉ざしたまま、答える。

 

「相変わらず可愛げのない餓鬼ですねぇ。そこは嘘でも来てくれて嬉しいと言っておきなさいな」

 

「いやだよ。おれはお前らみたいなのとは関わりたくないんだ」

 

「私を下級悪魔やゴーストと同じだと思っていませんか?これでも神の部類なのですよ」

 

「ニンゲンにとっては、目に視えるはずがないお前らはみんないっしょなんだよ。わかったらもう話しかけるな」

 

うんざりしたように息を吐くと、少年は目を開けて女をその場に残し、一人孤児院の中に入っていった。

 

小さな背を見送ると、女はやれやれといった風に肩を竦め、次の瞬間ふっとその場から霧散するように消えた。