「そういえば」
料理の仕込みをしながら、シェフ――結希は口を開く。
「うちって、他所のメイド喫茶みたいな、美味しくなる魔法だかおまじないがないですよね」
デザートの仕上げを終えた深夜は顔を上げると
「と、思うでしょう?」
ふふ、と笑って綺麗にアイスとプチフール、花の蜜漬けが盛り付けられたデザートの皿をトレーに乗せた。
「丁度良い、デザートを出してくるのでちょっと見ていてください」
***
「失礼致します、デザートの“春の宝箱”です」
深夜は厨房を出て正面の席に先程の皿を出すと、皿の上の華やかなデザートに目を輝かせている女性に訊ねた。
「お嬢様、このままでもデザートは美味しいのですが、実は当屋敷には美味しくなるおまじない、というものが御座いまして。もし宜しければ、おまじないをおかけしましょうか?」
「え、おまじないあったんですか!?是非お願いします!」
どうやら女性もシェフ同様、おまじないの存在を知らなかったらしく、驚いたような声を上げながら頷いた。
「畏まりました。……、お嬢様のデザートがもっと美味しくなーれ、美味しくなーれ、くるくるにゃん」
冷静沈着、家とは違いお客様の前ではほぼ真顔の、あの執事長が。
メイド喫茶のメイドに負けないくらい、萌え要素をぶっこんだおまじないをやりきり、
「!?!?」
周囲の客人たちは言葉を失った。
目の前でおまじないをかけてもらった女性は口元を両手で覆って「はわああ...」と言葉にならない感動を溢している。
そんな彼女を一瞥すると、深夜は一礼してまた厨房へと戻っていった。
この日のことが客人たちの間で広まったのか、薔薇屋敷の“おまじない”サービスを、特に執事長のおまじないを希望する者が毎日いるそうな。