休日だというのに学校指定の制服を身に纏い、街灯の心もとない光を頼りに夜道を歩いていていたショートカットの黒髪の少女――加々美 真知は何気なく自宅近くの公園に視線を向け、人影が入っていくのを見掛けて立ち止まった。

 

「………?」

 

右肩にかけているスクールバッグから携帯を引っ張り出してディスプレイに表示された時刻を見てみると

 

「10時過ぎてるっていうのに、一体公園になんの用なんだろう」

 

彼女は怪訝な顔で呟く。

 

変な人だったら嫌だし、近付かないに限る。

 

そう自身に言って公園の前を通り過ぎようと再び歩き出したのだが。

 

「……なんか、シルエットが女の子っぽかったような?」

 

はっきりと人影の姿は見えなかったが、真知と同じくらいの身長の少女がスカートの裾を翻しながら駆けていった、ように見えた気がして真知は小さく唸る。

 

「……もし女の子なら、こんな時間に一人は危ないって...見に行った方がいいかな。嗚呼でもな...」

 

1、2分ほどぶつぶつ言いながら公園の前を行ったり来たりすると「ええい!とりあえず様子を見に行くだけ言ってみよう」と半ば勢いで人影を追いかけていった。

 

追いかけた、と言ってもソレは20メートルほど先で何か大きくて黒いモノと対峙していたため直ぐに追いつき、隠れられそうな木の裏からそっと様子を窺う。

 

ソレは真知に背を向けているため顔は見えないが、どうやら同じ年頃かほんの少し年下の少女のようだった。

 

というのも、スチームパンクテイストのひらひらしたワンピースを纏い、手にはアニメの世界でよく見るような魔法のステッキらしきものを握って「ここでお前を倒す!」なんて、正義のヒーローによく有りがちな台詞を大人にも子どもにも成り切れない少女の声で言っており、その姿はまさに――

 

「魔法少女……」

 

いや、まさかそんなものが存在していたなんて。

 

少女趣味はないが、目の前に遠い昔の自分が夢見ていたあの“魔法少女”がいる、という事実に感動し、一歩踏み出した。

 

ぱきり。

 

木の枝が落ちていたらしい。

 

乾いた音が辺りに響き、驚いたように“魔法少女”が真知の方を振り返った。

 

「……!?」

 

一瞬。本当に、一瞬だけ。

 

自分と瓜二つの少女と、目が合う。

 

しかし直ぐに大きな手の平に視界を遮られ、

 

「見るな。連れていかれる」

 

背後に立つ男―――ローウェル家の長男、ウォーレスに片腕で身体を引き寄せられた。

 

「……ねぇ、ウォーレス。あの子、誰?」

 

「人の知識上で言い表すなら、ドッペルゲンガー」

 

「……じゃあ。アンタたちの知識上では…?」

 

「……。真理、とだけ。お前は踏み込んじゃいけない領域のものだ」

 

「そっか、……来てくれてありがとう。私一人だったら、ちょっと、気持ち的にやばかったかも…」

 

得体の知れないモノと遭遇したからだろうか、真知は小さく震える声で呟いた。

 

ウォーレスは「おう、どういたしまして」と安心させるようにいつもの調子で答えながらも……彼と同じように“魔法少女”の目を覆い、こちらに向かって「しー」と、人差し指を唇の前で立てている“ウォーレス=ローウェル”に視線を向けていた。

 

ウォーレスはあちらの“ウォーレス”に小さく笑んでウインクをすると、真知を抱えて彼女の家の方へ飛んで行く。

 

 

 

 

 

 

「どちらにとっても可能性の住人であり、深淵の住人でもある。だからこそ、人の子は見ることも知ることも許されない」


「ローウェルの子が来なかったときは僕が出ていこうかと思ったけど、必要無かったね」


彼等の出会いを、少し離れた場所から傍観していた青年は静かに呟き。


夜の闇へと消えていった。