ルトが“悪”――悪魔をガボゼで見つけて数年、……いや、数百年経った頃。
言葉らしい言葉を話さなかった天使と、一時期怪奇現象を引き起こしていた悪魔。
生まれたばかりだった彼等はすっかり大きくなり、城内の広場で元気いっぱいにあちこち走り回るヒトの子たちの面倒を見るようになっていた。
「走るのはいいけど、こけないように気を付けてね」
きゃっきゃっと声を上げながら遊んでいた子どもの一人が「はーい!」と悪魔に手を振りかけた瞬間。
「……!…っ…うう…」
「ふはっ、言ったそばから盛大にこけてどうするのさ」
柔らかな若草の上に顔面から転び、今にも泣き出しそうな子どもの様子に悪魔は小さく吹き出すと子どもを起こし
「いたいのいたいのー、天使に飛んでいけー」
擦り剝いてしまっている膝に手を翳して呪文めいた言葉を唱えると、思いっきり天使に何かを投げるフリをして見せた。
「うわぁ、痛いの飛んできた…!…けど、直ぐに痛くなくなったよ」
実際には何も飛んできてはいないのだが、子どもが痛みで泣き出しそうなときによく使う手なので、天使は慣れたように“痛みが移って直ぐに治る演技”をした。
自身が神と呼ばれる種族――この箱庭世界において序列が最上位の存在にして全ての生命の親だとだんだん悟っていったルト、ルカが六年程前新たに生み出した種族、それがこのヒトなのだが。
恐らく、箱庭にいる様々な種族の中で彼等の肉体は一番脆い。
それ故に、ヒトの子どもたちが一人前になるまでの期間、誰かが見守ってやらねばとルトが天使と悪魔に子守を命じたのだが。
「あの二人、子どもたちの扱いが上手いね」
城の窓から広場を眺めていたルトは感心したように呟くと、すぐそばでゆったりと楽器を奏でているルカは「そうだね」と笑う。
「あ、兄さん。柘榴なんだけど、」
「うん?」
「バラさんが教えてくれたんだけどね、僕と兄さん以外の人が実を食べるのは良くないんだって。なんでも、僕たちにとってはただの果物だけど、他の子たちにとっては毒になるそうだよ」
「嗚呼、そういえばこの間クロウもそんなことを言っていたな…死ぬわけではないらしいけど、口にしてどうなるかわからないからね。天使と悪魔に伝えて、子ども達が柘榴の木に近付かないように見ていてもらおうか」
「それがいいかも。僕があとで伝えておくよ」
「そう?それじゃあ、お願いね」
―――このとき、柘榴の木をすぐに燃やしていれば何かが変わったかもしれない。