冬の日の朝。

 

リピート神はオープン前の薔薇屋敷前に来ていた。

 

『リピート神様

大切な御話が御座います。本日の午前8時にお一人でお越しください。開館前ですが鍵は開いておりますので、そのまま中に入ってください。温かい紅茶を淹れてお待ちしております』

 

そう書かれた差出人不明の手紙を片手に、彼はひやりと冷たいドアノブに触れる。

 

そして遠慮なく扉を開けると、しんと静まり返った店内へと足を踏み入れた。

 

「お早う御座います、リピート神様」

 

リピート神が辺りを見回していると、店の奥から燕尾服を纏った青年――伊月 奏が片手にティーポットとカップを乗せたトレーを持って現れた。

 

「この手紙を寄越したのは伊月君スか?」

 

「はい、そうです」

 

何度かゲドウ神や霧谷家の末っ子とこの店を訪れているリピート神は、当然此処の執事である奏と面識がある。

 

しかし、一度として自分が神であることを彼に明かしたことはないし、会員証に登録した名前をそのまま“リピート神”にはしていないため、奏がただの人間ならばその情報を知り得るはずはないのだ。

 

だとしたら、考えられる可能性は二つ。

 

「……あんた、俺と同類か、別種ッスよね」

 

「はてさて…それはどうでしょうね」

 

直ぐにその質問の意味を理解したらしい、奏はクスリと笑って紅茶の準備をし始める。

 

「冗談ですよ。これから俺が一体何なのか、ちゃんと話しますからそんな顔しないでください」

 

湯気がたつ紅茶をテーブルの上にそっと置き。

 

奏は椅子を引いて、リピート神に座るよう促した。

 

 

***

 

 

「俺は、ゲドウ神…彼女がハンナという人間だった頃からの友人なんです」

 

警戒してか、一口も紅茶に口をつける様子のないリピート神の斜め前に立って眺めていた奏は呟くように告げると、彼の反応を待たずに続ける。

 

「なので、お察しの通り俺は人間ではありません。神祖のお気に入れでもないので、貴方の質問への回答は同族ではない、です」

 

「彼女はある事がきっかけで、俺のことや自分の家族のことを忘れてしまったようです。…ハンナから、人間時代の話を一度も聞いたことがないでしょう?彼女自身が覚えていないので、話せないんですよ」

 

淡々と、語る奏。

 

「…覚えていないから話せないんじゃなく、単純に話したくないだけなんじゃないんスか?」

 

「確かに、多くを語らない彼女なら有り得ます。しかし、付き合いが長く最も信頼しているであろう貴方に過去を何も語らないのは少し妙ではありませんか?遠い昔の何かを懐かしむような、そんなちょっとした仕草すら見せたことがないのでは?」

 

「………」

 

彼が人間の皮を被っているからなのか、その表情からは何も読み取ることが出来ずリピート神は無言で思考する。

 

(なんていうか、話はそれっぽいけど引っ掛かるんスよね…なんだ、この違和感は)

 

(いやでも、確かに先輩から過去の話を聞いたことは一度もない…)

 

リピート神の心を読み取ったように奏は「ふむ…」と何事かを考えるように唇に指を当てると、やがて「別に、信じられないならそれはそれで構いません」と笑った。

 

「本題はここからです。…貴方は、ハンナの過去を知りたくないですか?」