“善”の具現化が現れた数日後。

 

「城内で怪奇現象が起きている、だって?」

 

自室で箱庭の地図を描いていたルトは、薔薇さんの妹分にあたるエキウムの化身の報告に顔を上げ、緩く首を傾けた。

 

「はい…置いてあったはずの物が無くなったり、夜中に不気味な歌が聞こえてきたり…気付きませんでしたか…?」

 

「嗚呼…気付いていたよ。心当たりが無くもないけど、なかなか見つからなくてね」

 

「怪奇現象の犯人、ですか…?」

 

「うん。ルカにも協力してもらってるんだけどね」

 

ルトは若干困ったように苦笑を浮かべると、ペンを置いて「他の精霊たちも怖がっているようだし、犯人を探してくるよ」と部屋を後にした。

 

 

***

 

 

「とは言ったものの…さて、どうしようか?天使」

 

薔薇の精の管轄である城内の庭園。

 

ルトは自分の服の袖を掴み、眠そうに欠伸をしている“善”――天使を見下ろした。

 

天使というのは“善”の種族名であって個体の識別名ではないが、箱庭には彼女しか天使はいないため皆そのまま種族名で呼んでいる。

 

どうしようかと問われた天使は「むー?」と不思議そうに目を瞬かせると、何か閃いたようにぱあと笑ってルトの腕を掴んで引っ張った。

 

「そっちに何かあるのかい?」

 

「ん!」

 

腕を引かれるがまま庭の奥へと歩いていくと。

 

「………」

 

ガボゼの中ですやりと寝息を立てている黒い少年――ルトが創造したのであろう“悪”が居た。