どうしてこうなった。

 

慧に腕を引かれながら、深夜は内心困惑していた。

 

煙草の煙を吹きかけられて若干目が痛むが、それどころではない。

 

“煙草の煙を吹きかる”行為の意味を知っている深夜は、先程からだんまりを決め込んでいる幼馴染の背に訊ねた。

 

「あの、慧くん。さっきのは冗談か何かですよね?」

 

「………」

 

「ほら、煙の……」

 

「………」

 

慧がふいに立ち止まると、深夜は彼の背にどんと軽く額をぶつけた。

 

そして、暫しの沈黙。

 

慧は先程の行為の意味をよく分かっていた。

 

あのときは思わずそうしてしまったため羞恥も何もなかったが、少し冷静になって思い返してみるととんでもないことをしてしまったとその場で頭を抱えたい気分になってくる。

 

(……こいつ、絶対煙を吹きかける意味を知ってるよな。なんて言って誤魔化そうか…)

 

(ていうか、こいつも俺も男だってのに…三神に取られたくないって、こう嫉妬心みたいなのが…昔からそういうのちょっとあったけど、いやでも…)

 

(……おいおい、まさか…そういう意味でこいつのことを…?)

 

一つの可能性に気付き、ついに耐え切れなくなって

 

「だあああああもう!おい深夜!」

 

「っ、は、はい…!」

 

ぐるぐると回る思考を一度止め、慧は深夜を振り返った。

 

「あのさ、多分お前いますごく困ってると思うんだけど。さらに困らせること言うから、ちょっとだけ我慢してくれ」

 

「はぁ…わかりました。それで、どうしたんですか?」

 

仕方ない、といった風に小さく肩を竦めて耳を澄ませている深夜をしっかり見据え、一つ深呼吸をするとうまくまとまらない言葉をぽつりぽつりと吐き出していった。

 

「まず、煙草の煙のこと。…勢いとはいえ、人前であんなこと…本当に悪い。別に取って食おうとは考えてない、から…」

 

「ん…」

 

「……でも、さっきのを思い返してみて…男のお前とそういうことしたいって思えるほど、お前のことすごく…好き、なんだと思う…それも、ずっと前から…」

 

「………」

 

「お前が嫌がることは何もしない。ただ…これまでよりも近い距離で、いさせてほしい」

 

深夜がなんと返すのか、それを考えると怖くて。

 

「それじゃあ、仕事があるから」と逃げるように踵を返そうとした慧の服の袖を、深夜はしっかりと掴んだ。

 

「言い逃げは許しませんよ?」

 

「うっ……」

 

「……御返事、いまさせていただいても?」

 

「……は、早くね?心の準備が全然出来てないんだけど」

 

「知りませんよ。僕も準備出来ていませんでしたから、おあいこでしょう」

 

クスリと笑うと、深夜の表情は真剣なものに変わる。

 

「要約すると、付き合ってほしい。そう僕は言われたという認識で良いのですよね?」

 

「あ、嗚呼…まぁそういうことになる、か」

 

「……君、僕でいいんですか?」

 

「馬鹿、お前だからいいんだよ。でなきゃ告白なんかしないって」

 

「……。どうぞ宜しくお願い致します」

 

すっと伸ばされた手。

 

慧は目を丸くして深夜とその手を交互に見たあと言葉の意味を理解し「よ、よろしく…な」と自分も手を伸ばして照れくさそうに握手をした。

 

 

 

 

 

 

――――秋雨の夜、一組のカップルが誕生した。