ある、秋雨の夜。

 

職場であるBarの買い出しに出され、口に煙草を咥えて黒い傘を片手に街を歩いていた慧は、ふと聞き覚えのある青年の声に足を止め視線を上げる。

 

「いたた…」

 

「ちょっと見せてください?あー、これは…」

 

小さく唸っている青年の後ろ姿にすぐ幼馴染だと気付くと、「おーい、何やってんだ深夜」と声を掛けた。

 

その声に反応するように振り返った深夜の顔を見た瞬間、慧は固まる。

 

「……は?え、お前どうしたの」

 

「え?嗚呼、ちょっと目が痛くて…って、慧くん?」

 

慧は目尻に薄っすらと涙を滲ませている深夜の後ろにいた金髪の青年の胸倉を掴んで「こいつに何したんだよ。ん?」と睨みつけ、返答次第ではどうしてくれようかと一瞬にして煮えくり返った腹の中で考えた。

 

金髪の青年は驚いたように目を見開いた後、冷静にどうしてこうなったのかを分析すると一人納得したように頷いて口を開く。

 

「あ~…お宅はどちら様で?俺は三神と申しますんで以後宜しく!」

 

「……俺は加藤だ。あと質問に答えろよ」

 

「加藤ちゃんですね~!いやぁ、俺は何もしてませんよ。いや…俺があまりにもイケてるもんだから深夜お兄様は感激の涙を流したのかも…ってうそうそマジさーせんその握り拳をどうかおさめてください!」

 

「……次ふざけたこと抜かしたら殴る」

 

「うぇい深夜お兄様笑ってないで加藤ちゃんをどうにかしてくださいよ~」

 

二人のやり取りを、未だに涙を滲ませたままクスクスと笑っていた深夜は三神に助けを求められると

 

「慧くん、さっきからコンタクトがずれて目が痛いだけなので…本当に彼は何もしていませんよ」

 

堅く握られた慧の拳を手の平で包んでそっと下に下ろさせた。

 

「……はあああああ!?」

 

 

***

 

 

「……つまり、コンタクトがずれて唸ってる深夜を見掛けた三神が声を掛けて、その後すぐに俺が通りかかって今に至ると…」

 

「そういうことになりますかね~」

 

「うわぁ…三神、ほんとすまん。完全に俺の勘違いだった」

 

「いやいや、分かってくれればそれでいいんで!」

 

物凄く申し訳なさそうな表情で謝る慧を暫く眺めると、三神は何かを思いついたようにによりと笑った。

 

「いやぁ、加藤ちゃんは勘違いしちゃうほど深夜お兄様が大好きなんですね~」

 

「うっ…それは…」

 

「あれ?そうでもない感じ?じゃあ…俺がお兄様もらっちゃいますね~!」

 

深夜の腕に抱き着いて顔を若干引きつらせている慧を見上げると笑みを深くする。

 

慧は咄嗟に深夜の腕を引き寄せて彼の顔に煙草を吹きかけると「悪いな。こいつとはこういう関係なんだよ。他当たんな」と三神を引き剥がし。

 

腕を掴んだまま深夜を連れて歩いて行った。

 

その場に残された三神は二人の背中が見えなくなると

 

「深夜さん、煙草の意味わかってるのかな」

 

そうぼやいて、二人と逆の方向をゆったりとした足取りで歩いて行った。