穏やかな日々は過ぎてゆき
“幸福”の象徴である二人は、少年から青年へと姿を変える。
ここからは青年時代に起きた“重要な物語”をお見せしましょう。
花弁についた朝露が煌めく、秋と冬の狭間にある季節の朝。
ルカは幼い頃から日課となっている薔薇の水やりをするために城内の庭へと足を踏み入れると、純白の翼を背中に生やした白髪の子どもが静かに佇んでいた。
(あれは……)
見たことのない種族。
しかし、ルカは“見覚え”があった。
それは、数日前のこと。
「善を白とするならば、悪は黒かな?」
「そうだね。それが一番しっくりくる」
「じゃあ、善と悪の両方を合わせたら何色に?」
「うーん…白が濁る、…灰みたいな色じゃないかな?」
「灰みたいな…それを灰色と名付けようよ、兄さん」
「灰色。いいね、そうしようか、ルカ」
子どもの頃からよく二人でやる言葉遊び。
いつもならこの辺りで遊びは終わるのだが、この日はまだ続いた。
「善がもし人の形をしていたら、髪や目は白いかな?いやでも、目は赤がいいなぁ」
腕組みをし、むむ、と小さく唸りながらルカは言う。
「どうして?」
「ほら、薔薇も柘榴の実も、赤いものってとても綺麗に見えない?白の中に赤い目、凄く綺麗だと思うんだ」
「ふむ。じゃあ悪も赤い目がいいな。髪は黒」
弟の隣でルトは首を僅かに傾けつつそう呟くと、いつからそこにいたのか、二人の後ろから今は人の姿をした梟(子どもの頃に助けた、あの白梟)――クロウが口を挟んだ。
「善は悪へ、悪は善へ。どちらにもなれるよう、行き来するための翼をそこに付け加えては如何でしょう?」
「翼…うん、そうだね。ルカもそれでいいかい?」
「はい!」
***
言葉遊びの中で生まれた、白を纏う人型の善。
ルカが頭の中で想像していたものと目の前にいるソレは酷似していた。
驚きのあまり言葉が出ず、暫くの間口をぱくぱくさせていると、朝食の時間になっても戻ってこない弟を呼びにルトがやって来た。
「ルカ、水やりはまだ終わらないの?…おや、あれは」
ルトも子どもに気付き、口を閉じる。
が、直ぐに「君もおいで。一緒に食事をしよう」と子どもに微笑みかけ、その瞬間、子どもはぱあと嬉しそうな表情で頷いて二人の傍まで駆け寄ってきた。
「に、兄さん…」
「分かってる。後でクロウに訊いてみるよ」
弟にそう囁くと、ルトは二人に背を向けゆったりとした足取りで城の中へと入っていった。
それから数時間後。
城の外にある森に今は棲んでいるクロウに、白い子どものことを話すと。
ルトの予想通り、ソレはルカが創造した“善”そのものであるという回答が返って来たのだった。