「だ、だれか助けっ……!」
シュッ
「あーあ。騒がなければあと数秒は長生き出来ただろうに」
薄暗い路地裏に響く、青年――綾斗の無感情な呟き。
彼の左手に握られているナイフから滴り落ちる液体は、恐怖に顔を歪ませながら絶命した見知らぬ誰かの胸に赤黒いシミを作った。
喉を切られたのか、裂けた皮膚から溢れる液体はゆっくりと首をつたって地面を濡らす。
その様をぼんやりと暫く眺めていたのだが、ふいにエプロンをつけて自分の帰りを待っているであろう妹の姿が脳裏に浮かび、慣れた手つきでソレをばらし始めた。
(刹那ちゃんは闇ルートから食材を仕入れてるって思ってるみたいだけど……いつかは、俺自身の手で調達していること、話さないといけないかもね)
ソレがなんだったのか、ぱっと見は分からないくらいのところまできたとき、綾斗は無表情でそんなことを思った。
「……でも、もう少しだけこのままでいさせて」
誰にともなく呟かれた言葉は、静寂に飲み込まれる。
その静けさに耐えられなくなった綾斗はふう、と一息吐くと前もって用意していた洋服に着替え、脱いだものとばらした“食材”を鞄に入れて大通りの方へと歩いて行った。
前に進むにつれ人の声や足音、車のエンジン音が大きくなっていき、綾斗は何だかほっとする。
そして、完全に裏路地を抜けたとき――限りなく赤に近いであろう赤紫色に染まった街並みが広がり、彼はその赤さに目を奪われた。
まるで夢と現が溶け合った時間は、しかし長くは続かない。
少しずつ濃くなっていく闇に背を向け、どこかで弱弱しく鳴いている日暮の声に紛れるように、綾斗は最愛の妹の元へと歩き出したのだった。