「夏だー!」
「プールだー!」
「こらこら。プールサイドは走っちゃ駄目ッスよー!」
ある遊園地内、プールエリア。
イルカ型の浮輪を掲げ、流れるプールに向かって走っていくクズ神、カス神の背に声を掛けながら、日陰になっている場所に腰を下ろすリピート神。
その隣には既に体育座りし、暑さで若干ぐったりしているゲドウ神もいた。
「あの姉弟は夏でも元気ですねぇ…」
「神と言っても、精神は年相応ッスからね」
浮輪にまたがってきゃっきゃっとはしゃぐ姉弟を暫く二人で眺めていると、「おーい、一緒にスライダー行こうよ!」とクズ神が手を振ってくる。
それに気付いたゲドウ神は
「私は飲み物を買ってくるので、あの子たちと滑ってらっしゃい」
ひらひらと手を振りながら売店の方へ足を向けた。
***
(…あ、飲み物何がいいか聞くの忘れてましたね)
プールサイドからほんの少し離れた場所にある売店前まで来てからゲドウ神ははたと思い出し、「仕方ない、戻るか」と呟いて三人の元へ戻ろうとした、そのとき。
「お姉さん、お一人?」
「良かったら俺等と遊ばない?」
金髪のチャラそうな三人の男に囲まれ、一瞬「面倒くさいのが来たな」と肩を竦める。
しかし流石ゲドウの神。
直ぐに気分を切り替え「ええ、どうしようかな。私、友達と来るからなぁ」と男達を見る。
「じゃあそのお友達も一緒にどう?俺たち全然OKだけど」
「うーん…それじゃあお兄さんたちが私たちに飲み物奢ってくれたら考えるね」
「マジで?飲み物くらいいくらでも奢るよ!」
(ふっ…ちょろい男共だ。搾り取れるだけ搾り取りましょうかね)
内心で腹黒く笑いつつ、「わ~、ありがとう」と喜んでいるような女の演技をした。
そんな彼女の様子を、スライダーから滑り下りてぷかぷか浮かびながら見ていたクズ神が
「ねぇ、リピート神。ゲドウパパが人間の男にたかってるよ」
流れるプールにゆっくりと流されているリピート神を捕まえ、「ほら、あそこ」とゲドウ神たちがいる所を指差す。
「あー、ほんとッスね。先輩、生き生きしてるなぁ」
「妬かないの?」
「いつものことッスから…ん?」
余裕な表情を浮かべて視線を逸らしかけた瞬間、男の一人がゲドウ神の後ろ髪に触れるのが視界の端に映り、すっと目を細めた。
「……ちょっと行って来るッス」
「あは、やっぱり行くんだ」
「いってらっしゃーい」
クズ神、カス神に見送られながらリピート神は静かに彼等に近付いて行った。
***
「ほら、やっぱり下ろしてるよりポニーテールの方が似合ってるって!」
「後ろからも身体のラインが見えて凄くいいよ!…って、あれ?お姉さん背中怪我してる?」
ゲドウ神の長い髪を束ねて持ち上げる男は、ふと彼女の背中に何かの痕のようなものが見えた気がして顔を近づけようとしたとき、何者かによって視界を遮られた。
「困るんスよねぇ、俺のツレに気安く触れてもらっちゃあ」
ゲドウ神の背後で一人の男の顔を手の平で覆いながら、にこにこと彼女の前にいる男たちを見下ろすリピート神。
その目が笑っていないことに気付いた二人は怯えたように「す、すみませんでした…!」と逃げていき、彼等の背中が小さくなると
「ほら、あんたも早く行ってください。それとも、俺と“遊ぶ”ッスか?」
残された男の耳元で囁いて、手の平を退けた。
「ひい、」
まるで化け物でも見たかのように小さく悲鳴を上げ、その男も走り去ると――。
「もー…先輩超綺麗だし目立つんスから、あんまその恰好でふらふらしないでくださいよ」
ゲドウ神に自分が着ていたパーカーを羽織らせると、彼女の肩口に額を押し付けて呟いた。
「ふふ、他の恰好なら良いんですか?」
「……。良くないけど、“そういう人”だってわかってるんで隣で目を光らせるッス」
「おやおや」
愉快そうに喉を鳴らして笑うゲドウ神と若干複雑そうな表情を浮かべているリピート神を、プールの中から眺めていた姉弟は声を揃えて言った。
「御前等早く結婚しろよ」