「まぁいい。その子供の名前は?」

 

「……秋人(あきひと)だ」

 

「ほう、良い名前ですね。とりあえず、どういう感じなのか見たいのでその子供に話しかけてみてください」

 

「ん……わかった」

 

言われた通り、エンド神は部屋を見回したあと「あーくん。おやつの時間だ、出ておいで」と、あーくんこと秋人に呼びかける。

 

しかし、やはりというか秋人は何の反応も示さない。

 

「……とまぁ、こんな感じなのだが」

 

「ふむ、」

 

顎に手を添えて何かを考えるような仕草をするゲドウ神。

 

数十秒ほどで顔を上げると、最初から子供がどこにいるのか分かっているように部屋の隅に視線を向けた。

 

「隠れている子はどこでしょうねぇ」

 

立ち上がると、ゲドウ神は演技がかった口調で言いながら隅のカーテンに近付いていき、ばっと捲ってそこに体育座りをしていた六歳くらいの少年を持ち上げて笑う。

 

「ふふ、捕まえましたよ」

 

そのままゆっくりと二、三周ほどくるくる回ると、一瞬何が起きたのかわからないというような表情で固まっていた秋人がゲドウ神の腕に掴まってきゃっきゃっと楽しげに笑い出した。

 

そんな秋人の顔と、そして記憶の一部を覗き見ると静かに彼を下ろしてやり、目線を合わせるように片膝をつく。

 

「隠れるのが上手ですね。次は何をして遊びましょう。またかくれんぼしますか?」

 

「んーとね…肩車してほしい!」

 

元気よく答えつつもどこか遠慮がちに視線を逸らす秋人。

 

先程記憶を見たためその行動の理由に気付くと、肩車をしてやり

 

「秋人、そこにいる黒いお化けのお顔を隠しているフードを3分以内に捲れたらゲームクリアです」

 

二人の様子を黙って見守っていたエンド神にじりじりと近付いていくゲドウ神。

 

ふいに巻き込まれたエンド神はびくっと肩を震わせて後ずさっていった。

 

「や、やめろ……」

 

「ふふ、秋人はあの人のお顔、見たいですよねぇ?」

 

「うん…!」

 

「だ、そうですよ。ほらほら、隠し通したいなら逃げ回り足掻いてごらんなさいな。あ、部屋の外に出た場合は私が問答無用でフードを捲りますので」

 

「ひっ……」

 

短い悲鳴を上げると、エンド神は突然始まったデスゲームをクリアするためにゲドウ神と秋人から逃げ回った。

 

 

***

 

 

「で、結局どうなったんスか?」

 

その夜、霧谷家に戻ってきたゲドウ神を出迎えたリピート神は、秋人の相手をして疲れたのか、リビングのソファーに寝転がって天井を眺めている彼女のために紅茶を淹れながら訊ねた。

 

「エンド神の勝ち、でした。まぁわざと捕まらないようにして差し上げたんですけれどね」

 

「流石先輩ッス!そのあーくん?は、部屋荒しをやめたんスかね」

 

「んー…帰る前に、言い聞かせておいたので多分大丈夫でしょう」

 

興味無さげに答え用意されたティーカップを持ち上げると、玄関先で秋人に言ったことを思い出しながら紅茶を啜る。

 

『御前は賢くて良い子です。だから本当はどうするのがいいか、わかっているのでしょう。だったらその通りにしてごらんなさい。大丈夫、何があっても私は御前の味方の一人ですからね』

 

(……願わくば、ああいう子供に多くの幸運があらんことを)

 

――そして、かつての深夜と同じ道を辿りませんように。

 

彼女の表情から、きっと秋人が抱えている事情が重いものだと知ったのだろうと思ったリピート神は何も言わず、ただ隣に腰掛けて同じように紅茶を口に含むのだった。