毎週恒例となっている紅茶神、サカダチ神、ゲドウ神の三人茶会でのこと。

 

「母さん、娘が紅茶を淹れてくれたよ」

 

「あら、良いわね」

 

「お母様にも淹れて差し上げますよ」

 

「ふふ、嬉しいわ。ありがとう」

 

何の前触れもなく突然目の前で始まった家族設定の茶番に、戦神は危うく口から紅茶を垂れ流すところだった。

 

そんな戦神などお構いなしに茶番は続く。

 

「いやぁ、それにしてもまさか本当に戦神が聖剣を手に入れて帰ってくるとは…立派な息子、娘を持って私は嬉しいよ」

 

「そうねぇ、息子はこんなに逞しく、娘はとっても綺麗な女性に育って母さん鼻が高いわ」

 

「………!?」

 

「おや、どうしました?戦兄様。顔が青いですよ?」

 

「お前もかゲドウ神…!?いつからお前たちの息子、兄になったんだ俺は、あと聖剣ってなんだ俺は何の旅に出ていたんだ…!」

 

ツッコみ不在で誰にも助けを求められず、戦神は仕方なくツッコんでみたが思っていた以上に気力を削がれテーブルに突っ伏した。

 

「おやおや、数々の武勲をたてたあの戦神が我々の即興茶番でくたばるとは情けない」

 

「戦神は生真面目そうだからこういうものには慣れていないのだろう、仕方ないさ」

 

サカダチ神は僅かに苦笑を漏らすとゲドウ神の頭を撫でる。

 

それに続いて紅茶神がにこにこ笑いながら撫で始め、ゲドウ神は不思議そうに二人を見た。

 

「ふふ、私はゲドウちゃんのこと、可愛い娘だと思ってるわよ」

 

「私は…娘というより孫かな」

 

恐らく生前の年齢でいうとゲドウ神よりも年上であろう二人に頭を撫でられ、だんだん気恥ずかしさのようなものが出てきたゲドウ神は俯いた。

 

なんともしおらしい彼女の様子は非常に珍しく新鮮、暫く眺めて癒されたい気持ちを堪えつつ、戦神は咳払いを一つしたあと此処へ来た本題を切り出すべく口を開いた。

 

 

***

 

 

「紅茶ちゃん、ただいまー」

 

「あら、おかえりなさいクズちゃん」

 

三人の神が帰って一時間後、外出していたクズ神とカス神が紅茶神の部屋に帰宅した。

 

「カスちゃんは?一緒じゃないの?」

 

「んーとね、いま手を洗ってるよ。私はもう洗い終わった!」

 

「そう、いい子ね。もうすぐご飯出来るから、食器出してくれる?」

 

「はーい!」

 

元気よく返事をしながら食器棚の方へ小走りするカス神を見送ると、紅茶神はキッチンで野菜を刻みながら先程の戦神の話を思い出した。

 

『最近、下界に妙な気配が紛れ込んでいるとよく聞くので少し調べてみたんだが…どうやらその気配が確認されている一つはこの街らしい』

 

『下界に人間以外の種族がいること自体は何ら不思議ではない。問題なのは、誰もその姿を見たことがない、実在するかも定かではない“創世神話の生ける伝説”たちではないか、なんて話が天上界で広まっていることだ』

 

創世神話の生ける伝説。

 

世界の始まり、神の日常を描いたものを“創世神話”と天上界の者たちは呼んでいる。

 

そして創世神話に登場するこの神こそが、紅茶神たちを生んだ神祖だ。

 

その神祖や、創世時代にいた者たちが下界で何かをしている、と。

 

『…何か気になることがあったり、妙な者を見掛けたら俺に知らせてほしい。あと、深入りはしないように。上手く言えないが、少し嫌な予感がする』

 

(何も起きなきゃいいんだけど…ゲドウちゃんがちょっと心配ねぇ)

 

戦神が話している最中、一瞬だがゲドウ神の魔力が強くなった。

 

恐らくだが、何か心当たりがあるのだろう。

 

サカダチ神、戦神も魔力の上昇に気付いていたのだろうがその場では誰も触れなかった。

 

(あの子、昔から厄介事に巻き込まれやすいようだから…今回もそうならなければいいんだけど)

 

紅茶神ははぁ、と心配げに我が娘のように思っている女神のことを思い、溜め息を吐いた。