午後二時過ぎ。

 

この日、珍しく休日が被った夜明と真昼は数十分前からリビングのテーブルを挟んで顔を突き合わせていた。

 

「……やっぱり、いるのかなぁ?」

 

「……何がだ?」

 

「……あれだよぉ、あれ、」

 

「いや、うん。わかった、ちょっと待て」

 

困ったように眉を下げている妹を見ると、夜明は思考するように腕を組んだ。

 

深夜と日暮に視えていて、自分たちには視えていない"誰か"。

 

学生時代から薄々気付いていたが、二人の日頃の様子から察するにこの家にはその"誰か"が、もう長いこと棲み付いているようだ。

 

しかし、多少の気配を感じることはあっても、視えたことは一度もない。

 

なら気にしなければいいのだろうけれど。

 

「深夜ちゃんも日暮たんも出掛けてるのに、私たちの分の紅茶がいつの間にか用意されてたらちょっと気になるよね~…」

 

二人がリビングに入る数十分前。

 

朝から深夜と日暮は一緒に出掛けていて、真昼と夜明の二人は各自室で好きなことをして過ごしていた。

 

ティータイムの時間…午後二時になると二人はほぼ同時に部屋を出て、リビングへと向かう。

 

すると、テーブルの上に淹れたてであろう紅茶が注がれたティーカップが二人分、用意されていたのだ。

 

ここで二人は、そういえばこの家には何者かが棲み付いているようだ、ということを思い出し、今に至る。

 

「……まぁ、兄さんが何もしないってことは悪いものではないと思う。悪いものなら、こうしてわざわざ俺たちのティーカップに紅茶を淹れてくれたりはしないだろうし」

 

「きゃは、それもそうだね~。じゃあさ、一応、お礼言っとく?」

 

「そう、だな」

 

真昼の提案に頷くと、「ありがとうございます」とそこにいるであろう"誰か"に向けて呟いた。

 

「ありがと~超うれしかったよ!」

 

(ほんと、こいつのこういうところ好きだな)

 

視えない相手が実は物凄く偉い人かもしれないというのに、いつもの調子を崩さずに礼を言う妹に思わず吹き出してしまう夜明。

 

「ええ、何で笑うの~?」

 

「いや、何でもない…ふふ」

 

「嘘だぁ、絶対何か考えてたでしょ!」

 

「本当に何でもないって。気にするな……んん?」

 

「…え?」

 

気にするなよ、と言い終わる前にいま、誰かが夜明の頭に触れたような気がした。

 

「なんか、撫でられたような気がする~…」

 

どうやら真昼もらしく、不思議そうに首を傾げるが

 

「…お?ちょっとごめんねぇ、お友達からみたい」

 

真昼の携帯に着信がかかり、ぱたぱたとリビングを出ていく。

 

彼女の背中が見えなくなると、夜明は先程よりも小さな声で、呟いた。

 

「……あのとき。俺たちを、…兄さんを救ってくれたのはあなたなんだろうか」

 

「……多分、そうですね。気配がずっと変わらない」

 

「……ありがとうございます」と小さく笑うと、また頭を撫でられているような感覚が、今度はしっかりと感じられて夜明は目を細めた。

 

 

 

 

 

 

この日の出来事を、夜明は誰にも話さなかった。