初夏の日差しが緩く肌を刺す、そんなある日の午後。
人間界に赴く用があり、昨日からゲドウ神に案内をしてもらっている戦神はふと、古城の前で立ち止まって振り返る。
「少し、中に入っても良いか?」
「……ん?嗚呼、はい。構いませんよ」
「………」
(やはり、ここにゲドウ神を連れてくるべきではなかったか…?)
一拍間を空けてから頷く彼女の様子に戦神は少し心配になりつつ、古城の中へと入っていった。
それに続いて、ゲドウ神は彼の後ろを歩く。
この地は、数世紀前戦火に包まれ、様々なものが失われた場所。
そして――。
(ゲドウ神が、人間の娘を殺した地、か)
様々な戦や国の歴史を記憶している戦神は、この地で彼女がある人間の少女を手に掛けたこと、その理由を知っている。
だから昨夜、ゲドウ神に「次はどこに行きたいんです?」と訊ねられたとき、ここにも赴かねばならないことを話すべきではなかったのかもしれないと、後悔しながら朽ちた廊下を進んでいった。
(「そこも私が案内しますよ。その代わり、墓参りに少し付き合ってください」と言われたら、断れないだろう……)
小さく溜め息を吐いた戦神は、やがて玉座の前まで来ると立ち止まってまたゲドウ神を振り返った。
が、声を掛けるのはやめ、天上界に記されている記録と相違ないか、その確認作業を始める。
その様子を、ぼんやりとゲドウ神は眺めていた。
***
「次は……墓参り、か?」
確認作業を終え、古城を出た二人は夕暮れで朱に染まる街の外れの道を歩いていた。
「えぇ、それが終わったら日本に戻りましょうか」
「……、そうだな」
ゲドウ神の横顔をちらりと見ると、戦神はそれ以上は何も言えずに口を閉ざした。
それに気付いてか、「何か言いたげですねぇ」とゲドウ神は笑う。
「いや、その……」
「全く、妙な気は遣わないでもらおうか。…彼女を手にかけ、それをきっかけに私をその名の通りの"腐れ外道"と呼び非難する輩は増えた。そこを貴方は気にしているのでしょうけれど、全て事実ですし私は気にしていません」
「……!」
言い返したいのに言葉の塊は喉につっかえ、ふいに息苦しさを感じる。
彼女の言う通りだが、そうではない。
それをうまく伝えられない戦神はもどかしく思いながら、奥歯を噛み締めた。