「ただいま」
夕方。
いつもより少し遅い時間に学校から帰宅した刹那は鞄を部屋に置くと、何故か妹のベッドで眠っている綾斗の額にそっと手を当てた。
「まだ熱は下がってないみたいだね」
夏風邪を引いたのか、朝から熱を出して寝込んでいる兄を見下ろすと、小さく溜め息を吐いて一旦部屋をあとにした。
「兄さんのご飯、どうしよう。体調が悪い時まで人肉料理っていうのは…その辺り、元気な時に聞いておくんだったな…」
キッチンで困ったように腕を組み、今夜の献立を考える。
兄と違いそういう嗜好は全くない彼女は、下手に創作料理をして兄の胃を壊してしまうといけないと今まで無難なものしか作ってこなかったが。
「普通の食材を使うと味が分からないって言ってたし…ん、ちょっと待って」
体調が悪い時、人の味覚は鈍くなるはず。
だったらどの食材を使っても、味が分からないのは一緒ではないだろうか?
「……兄さんには粉々にした骨と血液が入ってるって言えば、どうにかなるかな」
呟くと、刹那は米を研ぎ始めた。
***
「兄さん、夕食できたよ。起きて」
お粥と水が入っているグラスをお盆に乗せて部屋に戻ると、机にお盆を置いて綾斗の肩を軽く揺さぶる。
「……んー…?」
やがて、妹の声と身体の揺れで目を覚ました綾斗は刹那をじっと見つめると、彼女の身体に腕を伸ばし。
「……、若干苦しいんだけど」
力一杯、抱き締めた。
抱き枕のような状態になった刹那は身動きが取れず、後ろの綾斗に「ご飯、食べないと。一旦離れて」と声を掛けてみる。
「……」
しかし、反応はない。
「兄さん」
「……。やだ」
掠れた声でぼそりと呟かれ、刹那はやれやれといった表情になる。
こういう言い方をするのはあれだが、綾斗は基本的には聞き分けがいい。
そんな彼が子供っぽくなるのは決まって、ぐるぐると考え事をして溜め込んだ結果自滅したときか、ふいに寂しくなったときか、だ。
「……昼に起きたら刹那ちゃんがいなくて。寂しかった」
ほら、やっぱり。
綾斗と向き合う様な体勢になって、背中に腕を回すと「仕方ないなぁ…」と呟いた。
「帰るの、遅くなってごめんね」
「……うん」
「明日は休みだから。一日、看病してあげる」
「……うん」
「もうひと眠り、する?」
「……」
「今度は起きたときもちゃんといるから、安心して」
「……うん。おやすみ」
「おやすみ、兄さん」
数分後、刹那の頭上から規則正しい寝息が聞こえてきた。