客人達が帰り、しんとした店内を清掃する使用人たち。

 

その裏、厨房でここ薔薇屋敷の専属シェフ、二階堂 結希は一人創作ドレッシングの試作をしていた。

 

出来上がったドレッシングを味見すると、厨房からひょっこりと顔を覗かせてテーブルを拭いている奏を呼ぶ。

 

「ん、なんですか?」

 

彼女に呼ばれ、不思議そうに首を傾げながら来る奏に、先程完成したドレッシングが入ったボールを差し出して

 

「試作で作ってみたんだけど、今回は上手くいったと思うのよ。でもちょっと不安だからあんたに味見してもらおうと思って」

 

にっこりと笑った。

 

奏もにっこり笑い返すとそのまま回れ右をして厨房を出ようとする。

 

しかし、結希にがっちりと右肩を掴まれ阻止された。

 

「伊月くん、なんで逃げるのかなぁ?」

 

「いやだって、結希さんの創作ドレッシングって毎回クソ不味いじゃないですか。俺にそれの味見させようなんて、なんか恨みでもあるんですかね」

 

「恨みなんてないわ、ただあんたは薔薇屋敷のゲテモノ係でしょう?」

 

「うわ、自分でゲテモノって言っちゃう辺りがもう…」

 

「とにかく、あんた以外に犠牲になってくれる人はいないんだから。さぁ、」

 

スプーンでドレッシングをすくい、奏の口元まで持っていく。

 

(あれ…匂いだけだと普通に美味しそうなんだけど)

 

微かに柑橘系の甘酸っぱい香りを感じ、結希の言う通り今回は大丈夫なのかもしれないと少し期待して奏は口を開けた。

 

口内にドレッシングが入ると、オレンジの爽やかな風味、あとからくるどろどろの青汁を飲んだような苦み、七味をこれでもかと入れたような辛さが……ん?

 

味覚の変化に脳がついて行かず、一拍の間を置き……。

 

「……っごほ、…あんた、こんどはなにいれたの…っ!?」

 

奏は盛大に咽ながら結希を睨んだ。

 

そこに、クスクス笑いながら綾斗が食器を持って入ってくる。

 

「ふふ、結希さんの創作ドレッシングの餌食にでもなったんですか?お気の毒に…」

 

「うえ……綾斗さん、他人事だと思って笑わないでくださいよ」

 

「他人事、ですからね」

 

綾斗の笑う声を聞きながら、奏はげんなりとした顔で冷蔵庫の水を取り出した。

 

そんな二人の様子を黙って眺めていた結希は苦笑し、呟く。

 

「あはは…またやっちゃった」