「やっと書けた……」
天上界、とある屋敷の一室。
朝から筆を握り、手紙を綴っては丸め込んでいた戦神はもう何枚目かわからないそれを両手で持ち上げて静かに歓喜した。
陽はすっかり傾き、大きな丸い月が浮かんでいる。
窓の外をちらりと見ると、封筒に手紙と、それから街で買った栞を入れ封をした。
「……もし、彼女がこれの花言葉を知っていたら…男らしくないと思われてしまうだろうか」
昨夜、街へ出掛けたときに聞いた話では、明日は地上の一部ではラブレターの日と呼ばれているらしい。
流石に愛の言葉を綴った手紙を送る勇気はないため、代わりにそれとなく思いを伝えられるものを探していると、彼の表情から恋愛絡みで悩んでいることを察した出店の店主が
「花言葉を閉じ込めた栞を贈ってみては」
そう言って一枚の栞を差し出してきた。
つい買ってしまったが、やはりこんなものには頼らない方がいいのではないか、と頭を抱える。
しかし、手紙だけ送るのは何とも言えないため、結局栞も一緒に入った封筒を翌朝ポストに入れた戦神だった。
***
『拝啓 親愛なる友へ
如何御過ごしだろうか。
まぁ君のことだから、自由気儘にやっていることだろう。
この間、天上界の街で女神たちが、地上には手紙を送る日があると話していてな。
それで、こうして君に手紙を書いてみた。
といっても、特に話すことはないのだが……
ええっと、そういえば今度地上に用事があるんだが、案内をまた頼めないだろうか?
宜しく頼む。
……あと、同封している押し花の栞は街で見かけて買ったものだ。
好きに使ってくれ。
それでは、また。』
戦神から送られてきた手紙を読み終えると、封筒の中に入っている、スミレを押し花にした栞を取り出した。
ちょうどそのとき、ブログ神の家へ出掛けていたリピート神が帰宅する。
「先輩、手紙ッスか?」
リビングのソファーの上に寝転んでいるゲドウ神を見つけると、笑顔で傍に寄りながら彼女の手に持っている封筒と紙に視線がいった。
一体誰からだろう?
彼の疑問は直ぐに解決した。
「戦神から、地上で手紙を送る日とやらがあるらしいからと、ね」
(彼奴か…しかもそれって、ラブレターの日のことッスよね)
戦神がどこでその日のことを聞いたのかは分からないが、やってくれたな、と腹の中で舌打ちをしていると。
「.....You occupy my thoughts.」
ぽつりと、栞を頭上に掲げて眺めているゲドウ神が呟いた。
「どうしたんスか?」
「ん。この栞に使われている、紫のスミレ。今のはこれの花言葉ですよ」
「……。へぇ、先輩物知りッスね」
にこりと笑うと、もやもやとした気持ちが顔に出てしまう前に、ぼふりとゲドウ神の手元に顔を押し付けて隠す。
そんな彼の頭を、ゲドウ神は栞に視線を向けたままそっと撫でた。
紫のスミレの花言葉:訳
あなたのことで頭がいっぱい