■四章
テーオドルの家が近付くにつれ、何かが焦げた臭いは濃くなっていく。
その臭いの中に、鉄のような臭いも混ざっていた。
やがて村の北側まで来たクラウスは肩で息をしながら目の前の光景に絶句し、小さく震えた。
「………何なんだよ、」
家も、小屋も、家畜も。
そして、この辺りに住んでいた村の人たちも。
皆血を流し、燃えていた。
ある者は腕を切り落とされ、ある者は背中に矢が刺さっている。
他にも、腹を大きく裂かれた者、何度も殴られたような、顔を腫らした者もいた。
地獄絵図とはまさに、このことだろう。
彼等の屍を前に、クラウスは確信する。
「…盗賊の仕業だ」
食料や金目のものを奪いに来た盗賊が、村の人間を殺して火を放った。
だとすれば、まだ近くにいるかもしれない。
クラウスは周囲に気を配りながら、燃え盛る村の中を駆けた。
(無事でいてくれよ、テオ…!)
だが、そんなクラウスの祈りは直ぐに砕け散る。
赤い炎に包まれた家の前に、テーオドルはいた。
正確には、うつ伏せに横たわっていたというのが正しいか。
クラウスはテーオドルの側に駆け寄ると、その身体を抱き起して必死に名を呼んだ。
「テオ?テーオドル!おい、冗談はやめてくれ…!」
堅く閉じた目は開く気配がなく、抱いている身体は氷のように冷たい。
それでもクラウスは言葉を掛け続けた。
「テオ、起きろ…こんなところで寝ていたら体調が悪化してしまうだろ…?」
「……体調が良くなったら、逆立ちの練習しよう。最後までちゃんと付き合うから…なぁ、」
テーオドルの頬に、一滴の雫が落ちた。
「…そうだ、花のことを今度教えてくれ…っ、お前、植物学者になりたいって…言っていただろう?……俺にっ、たくさん教えて…」
もっと早く駆け付けていれば、親友を救うことが出来たのだろうか?
彼はどんな気持ちで、逝ってしまったのだろうか?
己の無力さに、クラウスは火の海の中で周りを気にせずに泣き叫んだ。
そんな彼の頭上で、まるで彼らを笑っているかのような白い三日月が浮かんでいた。