「今日は何をしてたんだ?」
長く伸びる自分たちの影を踏んで歩きながら、クラウスは訊ねた。
「植物の本を読んで過ごしてた。花って面白いんだね、土地によって咲くものが違うし、まだ生態がよくわかっていないものもたくさんあるそうだよ」
「へぇ、気に入ったものはあったか?」
「そうだな…みんな好きだけど、カルーナが一番かな」
「カルーナって、山を越えたところにある村の外れに咲いてる、あの紫色の?」
以前、東の山を越えたところにある大きな村に住む、母方の親戚に会いに行ったときに見た花をクラウスは思い出した。
テーオドルは「そうそう。白やピンクもあるらしいよ」と笑う。
「あれ、大人たちが嫌ってたよな。理由はよくわからないけど」
クラウスたちが住んでいる国では、カルーナという花は貧困と関連付けられ、軽蔑されている。
そのことを知らない二人は難しい顔をして小首を傾げた。
「大人になったら、植物学者になって色んな人に植物の…カルーナの魅力を伝えられたらいいなぁ」
どこか絵空事を語るように、遠い目をしてテーオドルは呟く。
そんな親友の横顔をちらりと見ると
「いいんじゃないか。テオならきっと出来るさ」
頑張れ、と背中を軽く叩いた。