終章

 

 

 

深夜の部屋に入ると、ちょうど彼は目を覚ましていた。

 

聞こえはしないだろうが、私は傍にそっと近付いて

 

「おはよう、深夜。お目覚めは如何?」

 

微笑みかけてみる。

 

すると、私の声に反応するように、急に視線を動かして…私と目が合うと彼は何か言いたそうに口を開くも、直ぐに閉じてしまった。

 

(そういえば“あの日”、この子に触れただけでなく憑依までしてしまったんですから、視えていてもおかしくはありませんよね。むしろ数時間前まで視えていなかったのが不思議です)

 

そう思いつつ、もう一度深夜に声を掛けてみる。

 

「おや?しっかりと視えているようですね。深夜、私を覚えていますか?」

 

「…はい。お久し振りです」

 

私の声が聞こえ、姿が視えていることを確信し、何だか嬉しい気持ちになる。

 

「ふふ、久し振り。まぁ…私は御前の前に姿を見せたあの後もずっと近くにいたので、久しいという感覚はないのですけれどね」

 

「そう、だったんですね。…あの、助けていただき有難う御座いました」

 

まさか、この子に礼を言われるとは思っていなかった。

 

私は一瞬目を見開くも直ぐに「何のことだか」と言って、深夜の頭を撫でた。

 

「これからも、御前のことを見ていますよ。この私が傍にいる限り、何も恐れることはない。だから安心して、自分の思うように生きていくといい」

 

「…はい」

 

小さく頷く彼の頭を撫で続けていると

 

「せんぱーい、そろそろあの子たち帰ってくるッスよ」

 

扉の向こうからリピート神の声が響いた。

 

「もうそんな時間ですか。分かりました、そっちは任せましたよ」

 

流石にあれだけの人数が家の中にいたら、日暮が戸惑ってしまうだろう。

 

客人たちには、場所を変えていただかなくてはね。

 

「了解ッス」

 

私の考えを読み取ってくれたであろうリピート神は返事をしてリビングに戻っていった。

 

深夜が「あの方は?」と首を傾げる。

 

「ん?嗚呼…彼は私の後輩みたいなものです」

 

「後輩、ですか。ええっと、ということはあの方も普通の人には…」

 

「視えないでしょうねぇ。しかし、御前と日暮には視えると思いますよ」

 

「日暮も?じゃあ時々日暮がじっと何かを見ていたのって…」

 

「私たちがそこにいたから、ですね」

 

ずっと疑問に思っていたのか、納得したように「成る程」と深夜は呟く。

 

それとほぼ同時に、玄関の扉が開く音がした。

 

「帰ってきたみたいですね。私は少し出掛けます、あとは兄馬鹿の御前の弟たちに任せるとしよう」

 

神々の御茶会は場所を変えてもまだ終わっていないはず。

 

夜明たちが帰って来たなら、今からでも参加しようかと考えた私は窓を開け、そこから飛び降りようと足を窓枠にかけると、慌てたようにもう一つ訊ねられた。

 

「あの、貴女の御名前を窺ってもいいですか?」

 

一瞬なんと答えようかと考えたが、私はこの子の神であることを思い出して

 

「………。皆、私を外道の神…ゲドウ神と呼んでいる」

 

背を向けたまま答え、窓枠から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、私はこれからも御前の神であり続けるよ。

 

御前が、自分の中の化け物に喰われてしまわないように。

 

それが、私の役割だと思っているのです。

 

だから、今度は。

 

御前自身の幸福のために、もっと自由に生きなさい。