■終章
深夜の部屋に入ると、ちょうど彼は目を覚ましていた。
聞こえはしないだろうが、私は傍にそっと近付いて
「おはよう、深夜。お目覚めは如何?」
微笑みかけてみる。
すると、私の声に反応するように、急に視線を動かして…私と目が合うと彼は何か言いたそうに口を開くも、直ぐに閉じてしまった。
(そういえば“あの日”、この子に触れただけでなく憑依までしてしまったんですから、視えていてもおかしくはありませんよね。むしろ数時間前まで視えていなかったのが不思議です)
そう思いつつ、もう一度深夜に声を掛けてみる。
「おや?しっかりと視えているようですね。深夜、私を覚えていますか?」
「…はい。お久し振りです」
私の声が聞こえ、姿が視えていることを確信し、何だか嬉しい気持ちになる。
「ふふ、久し振り。まぁ…私は御前の前に姿を見せたあの後もずっと近くにいたので、久しいという感覚はないのですけれどね」
「そう、だったんですね。…あの、助けていただき有難う御座いました」
まさか、この子に礼を言われるとは思っていなかった。
私は一瞬目を見開くも直ぐに「何のことだか」と言って、深夜の頭を撫でた。
「これからも、御前のことを見ていますよ。この私が傍にいる限り、何も恐れることはない。だから安心して、自分の思うように生きていくといい」
「…はい」
小さく頷く彼の頭を撫で続けていると
「せんぱーい、そろそろあの子たち帰ってくるッスよ」
扉の向こうからリピート神の声が響いた。
「もうそんな時間ですか。分かりました、そっちは任せましたよ」
流石にあれだけの人数が家の中にいたら、日暮が戸惑ってしまうだろう。
客人たちには、場所を変えていただかなくてはね。
「了解ッス」
私の考えを読み取ってくれたであろうリピート神は返事をしてリビングに戻っていった。
深夜が「あの方は?」と首を傾げる。
「ん?嗚呼…彼は私の後輩みたいなものです」
「後輩、ですか。ええっと、ということはあの方も普通の人には…」
「視えないでしょうねぇ。しかし、御前と日暮には視えると思いますよ」
「日暮も?じゃあ時々日暮がじっと何かを見ていたのって…」
「私たちがそこにいたから、ですね」
ずっと疑問に思っていたのか、納得したように「成る程」と深夜は呟く。
それとほぼ同時に、玄関の扉が開く音がした。
「帰ってきたみたいですね。私は少し出掛けます、あとは兄馬鹿の御前の弟たちに任せるとしよう」
神々の御茶会は場所を変えてもまだ終わっていないはず。
夜明たちが帰って来たなら、今からでも参加しようかと考えた私は窓を開け、そこから飛び降りようと足を窓枠にかけると、慌てたようにもう一つ訊ねられた。
「あの、貴女の御名前を窺ってもいいですか?」
一瞬なんと答えようかと考えたが、私はこの子の神であることを思い出して
「………。皆、私を外道の神…ゲドウ神と呼んでいる」
背を向けたまま答え、窓枠から飛び降りた。
深夜、私はこれからも御前の神であり続けるよ。
御前が、自分の中の化け物に喰われてしまわないように。
それが、私の役割だと思っているのです。
だから、今度は。
御前自身の幸福のために、もっと自由に生きなさい。