家の中に入り、リピート神に連れられて入ったのはリビングだった。

 

「……おやおや」

 

ソファーに座って昼間から酒を呷っている父親がまず視界に入り、隣に立つリピート神に訊ねる。

 

「何故父親がここに?朝仕事に行ってましたよね?」

 

「それが…俺と日暮ちゃんが話してるところに、タイミング悪く忘れ物を取りに帰って来たおばさんに見られちゃって。今朝のこともあるし、おじさんにも叱ってほしいってわざわざ会社に電話かけたんスよ」

 

「はぁ、それで?」

 

「ちょうど会社で、上司には小言を言われ部下には馬鹿にされて、おじさん苛ついてたみたいッス。で、家に帰ってきた途端戸棚の酒引っ張り出してやけ酒始めたんスよ。だからおばさんは一人で日暮ちゃんを叱ってたんスけど、日暮ちゃんも変な意地張って俺や先輩はいるってずっと言ってて」

 

「それに腹立てて、ついに手をあげたと?」

 

「そういうことッス」

 

ちらりと、父親から少し離れたところで日暮を引っ叩いている母親に視線を移すと、いい加減この女をどうしてやろうか、という気持ちになった。

 

しかし、人間のいざこざに自分たちが干渉しても事態を余計に悪化させるだけだ。

 

ここは、嵐が過ぎ去るのを静かに待ち、傍観しているのが一番いい。

 

私は腕を組んでじっと父親と母親を交互に見た。

 

見た、というよりは睨んだと言った方がいいだろうか。

 

リピート神は恐らく自分が原因だと思っているのだろう、狼狽えながらどうにかして止められないかとぶつぶつ呟いている。

 

(……全く、仕方ないですねぇ)

 

「エド、外からこれを回しなさい」

 

リビングから出てすぐ左手にある部屋からビデオカメラを一台持ち出してリピート神に渡すと、私はまた部屋に戻った。

 

そんなとき。

 

「ママ、何してるの!?やめて!」

 

外出していた真昼が帰って来た。

 

彼女は何かを察知してリビングに駆け付けると、手に持っていた鞄をその辺に放り投げ、妹に手を上げている母親を制止しようと後ろから羽交い絞めをした。

 

だが、理性が半分飛んでいる暴力的な母親は真昼よりも力が強く、あっさりと振り解いて「邪魔しないでちょうだい!」と彼女の頬を思いっきり殴る。

 

その僅か数秒後に、夜明も帰って来た。

 

家の中に流れるただならぬ空気に、彼も慌ててリビングに駆け付けたようだ。

 

目の前の光景に、夜明は顔を強張らせながらも父親の方へと駆け寄り、肩を揺さぶる。

 

「父さん、今すぐ義母さんを止めてくれ!このままじゃ妹たちが…!」

 

必死に懇願する夜明を、虚ろな目で見上げた父親は

 

「うるせえ、御前まで俺に指図する気か?」

 

腹を蹴り飛ばしてまた酒を呷った。

 

酒で正気を失っている父親には何を言っても無駄だと判断したのか、痛みに顔を歪めながらも起き上がると、今度は母親の腕を掴み叫ぶ。

 

「義母さん、流石に今回はやりすぎだ!今すぐやめて頭を冷やしてくれ!」

 

腕を掴まれた母親は真昼のときとは違い、まるで幼い子供を諭すかのような口調で

 

「夜明くん、これは日暮のためなのよ。この子が将来おかしな大人にならないために、お義母さんは心を鬼にして躾ているの。だから貴方は真昼と部屋に戻って、勉強でもしていなさい」

 

というと、日暮の髪を掴んだ。

 

母親を止めることにも失敗した夜明は、駄目元でもう一度父親に頼もうとソファーに駆け寄る。

 

父親は夜明に気付くと、傍らに置いていた酒瓶を手にし、夜明の頭を殴りつけ吐き捨てるように言った。

 

「この出来損ないが…」

 

夜明を見下ろすその目には、妻の命を奪った憎き敵が移っていた。

 

(こんなに胸糞悪い思いをしたのは、何百年ぶりだろうか)

 

永い時間を生きているのだから、こういう人間たちを見たことがないわけではない。

 

だが、愛着がある子供たちに手を上げる彼等に、私は苛立ちを隠すことなく殺気立った。

 

それでも、干渉はしない。

 

じっと傍観していると、深夜も学校から帰ってきたようだ、こちらに向かって走ってくる足音が廊下から聞こえてくる。

 

「……!」

 

開けっ放しになっているリビングの扉を通り抜けると、目の前の光景に深夜は絶句した。

 

それはそうだろう。

 

自分があの手この手で守って来た弟たちが、自分がいない間に両親から暴力を受けているのだから。

 

深夜が帰ってきたことに気付いた父親と母親は気持ちの悪い笑みを張り付けて「おかえり」と言うと、また夜明たちに暴力を振るおうとした。

 

すかさず深夜がそれを止める。

 

「ちょっ、と…待ってください!二人とも何やってるんですか!」

 

「何って。こいつらが悪い子だから叱っているんじゃないか」

 

「そうよ、いけないことをしたら叱らなきゃ。深夜くんからも言ってやってちょうだい、日暮ったらまた誰もいないところを見てぶつぶる言ってたのよ」

 

(さて、深夜。御前ならどうする?)

 

二人の言葉に口を閉ざす深夜の傍に行き、彼の行動を静かに見守った。