兄弟の家に棲み付いて数年、色々と分かったことがある。
まず、深夜と夜明の母親は、夜明を生んだときに亡くなっている。
そのため父親が兄弟を男手一つで育てているが、どうやら最愛の妻を亡くしたのは夜明のせいだと思っているらしい。
だからなのか、夜明に対しては無関心、深夜にだけは人が変わったように甘い。
そんな深夜は年齢の割に落ち着いていて、非常に頭が良い。
物心ついた頃には父親の態度に気付き、うまく立ち回って何とか夜明にも関心を向けてもらおうとしている。
弟の夜明は、いつも傍らにいる兄の影響を少なからず受けているようで、よく周りを見ている。
夜明が小学二年生に上がる頃には、父親は自分に関心がないことに薄々気付き、寂しいことではあるが兄が認めてくれるならそれでいいと思おうとしているようだった。
触れたものの記憶や感情を読むことが出来る私は、彼等を観察しながら深夜の頭の中を覗いてみたいと何度か思ったが、結局覗かなかった。
深夜には神視(ジンシ)の才――霊感よりも稀少な、人ならざるものを視る才能を恐らく持っているため、無闇に触れられないのだ。
もしいま私が触れて才能が目を覚まし、私やリピート神が視えてしまったら厄介だし、彼にとってもいいことは何もないだろう。
私は彼に触れないよう、少し距離を空けていつも見ていた。
***
時は流れ、深夜は高校生、夜明は中学生として生活をしていたある日のこと。
「深夜くん、夜明くん。これから宜しくね」
性格に難がありそうな女と、二人の少女が霧谷家にやって来た。
母親に促された姉妹は順に深夜と夜明に挨拶をすると、一瞬だけ、その女は冷ややかな目で彼女たちを睨んだ。
大体考えていることは察しがつくが、私は女の腕に触れて頭の中を覗いてみる。
『この子たち、あの人の言ってた通りで“良い子”そうね。この分なら私の言うことを素直に聞いてくれそうだし、良い母親を演じられそう。…それに比べ、うちの馬鹿たちはどうして教えた通りに挨拶出来ないのかしら!物分かりが悪くてほんと嫌になっちゃうわ!』
(やはりこの女、猫被ってますが腹の中は真っ黒ですねぇ。深夜は…ちゃんと気付いているようだ)
腕から手を離すと、私は女の戯言を鼻で笑った。
すると、それに反応するかのように日暮と名乗っていた白髪の少女が私とリピート神を見上げる。
日暮の様子に気付いていない女と真昼、そして深夜、夜明がリビングへ向かうと、日暮は彼女たちにはついて行かずにその場に残り、か細い声で問いかけてきた。
「貴女たち、は…だれ…?」
(この子どもも神視の才を…しかも、完全に開花してしまっていますね)
「御前たち人間でいうところの“神様”ですよ」
「かみさま…いつからこの家に、いるの…?」
「あの兄弟がとても小さい頃からです」
「そっか…」
日暮がまた何かを問いかけようとしたとき、彼女を呼ぶ女の苛立った声が廊下に響いた。
「…かみさま、また御話…してくれる…?」
「勿論。いつでも話しかけてくるといい。ねぇ、リピート神?」
先程からずっと黙って何か考え事をしているリピート神に訊ねると、「…あ、はいッス」と返事が返ってくる。
「さぁ、行きなさい。御前の母親が呼んでいますよ」
日暮はこくりと頷き、私たちに手を振って母親の元へと小走りで行った。
***
「それから数週間後、父親と母親は再婚し四人の子供たちは義理の兄妹になった。深夜と夜明は母親になった女がどういう性格をしているのか、早い段階で察していたこともあってか…母親の機嫌を取りつつ、姉妹の面倒を積極的に見ていましたねぇ」
ここまで語り終えると、ふと喉の渇きを感じ紅茶を淹れようと立ち上がった。
「再婚後、色々あったんですがそこを語っていると明日になってしまうので省略。そうだな…兄妹だけで暮らすことになったきっかけを話すとしよう」
ティーカップを温めながら、私は“あの日”のことを語り始めた。