二章:異国での出会い

 

 

 

「今から十四年前の話です。ヨーロッパを拠点としていた私とリピート神は、東に浮かぶ島国――日本の文学や文化、歴史に興味を持ち、共に拠点を日本に移しました」

 

「三ヵ月程で日本語をマスターした私はリピート神に住居探しを任せ、各地の図書館や本屋を巡り…この街の図書館に辿り着いた。そして、図書館である幼い兄弟を見掛けたのです」

 

 

***

 

 

日本に来て数ヵ月経ったある日のこと。

 

これまで訪れた日本の図書館の中で、恐らく一番大きいであろう図書館の前に私は立っていた。

 

館内へ入り、棚に並ぶ本を眺めながら歩いていると、いつの間にか図書館の奥にある読書コーナーまで来ていた。

 

日本の文豪が書いた小説でも探そうかと踵を返したその時、大学生や社会人に混じって机の上に沢山本を詰み、読書に励んでいる二人の少年の姿が視界に入る。

 

顔が似ている、恐らく兄弟だろう。

 

理由はわからないが、私は少年たちのことが妙に気になるというか、引っ掛かりを感じた。

 

だから私は人間には自分の姿が見えないようにし、彼等にそっと近付いて手元を覗き込んでみた。

 

弟らしき少年が読んでいるのは植物図鑑。

 

もう一人の少年は、動物実験の研究レポートを熱心に読んでいた。

 

こんな小さな子供がこういった本を読んでいることに素直に驚いていると、ふと彼が後ろを振り返った。

 

じっと私を見て、首を傾げている。

 

(……もしかして、視えているのか?)

 

少年に問いかけようと口を開きかけたとき、弟らしき少年が「兄さん、どうしたの?」と訊ねた。

 

「誰かが後ろにいた気がしたんですけど…気のせいだったみたい」

 

やはり二人は兄弟だったか。

 

兄さんと呼ばれた少年は何事もなかったかのように、本のページに視線を戻した。

 

私は兄弟の、特に兄の方に興味を持ち、暫く観察することにした。

 

 

 

 

 

夕方。

 

私を迎えに図書館まで来たリピート神にそのことを告げると、彼は一瞬驚いたように目を見開くも「住むとこ、見つかったッスね」と笑い、それ以上は何も言わなかった。

 

私が決めたことに、特に異論はないということだろう。

 

一時間後、本を読み終えたのだろう、兄弟は棚に本を戻すと手を繋いで図書館を出た。

 

その後をつけると、二人は図書館から数十分程歩いた場所にある一軒の家の中に入っていく。

 

どうやらあれが、兄弟が住まう家のようだ。

 

「きり…たに…?」

 

表札の文字をじっと見るリピート神に「多分、きりや、ですよ」と教え、玄関の扉が閉められる前にするりと身体を滑り込ませ中に入った。

 

丁度リピート神も中に入ったとき、奥から父親であろう男が出てきた。

 

「おかえり、深夜。…と、夜明」

 

兄は深夜、弟の方は夜明というらしい。

 

「ただいま、父さん」

 

深夜がにこりと笑って返すと、夜明も兄の真似をして「ただいま」と笑った。

 

そんな夜明を見て、父親は一瞬冷たい目で見下ろすと「手を洗ってこい、ご飯にするぞ」と言い、さっさとその場を立ち去った。

 

「この家、なんか複雑そうッスね」

 

父親の様子に気付いたらしいリピート神が呟く。

 

「そうですね」

 

トテトテと洗面所に走っていく二人の小さな背中を眺めながら、頷いた。