一章:欠席の謎

 

 

 

午前八時半、神々の御茶会会場。

 

紅茶神とクズ神、カス神が住むマンションの一室で、神々は早朝から各々持ち寄ったお菓子を口に頬張りながら談笑していた。

 

そこに、一番最後にやって来たリピート神は部屋に入ると辺りをぐるりと見回して

 

「おはようございまーす。あら、俺が最後ッスか」

 

テーブルの上に置かれているサンドイッチに手を伸ばし、適当な場所に腰を下ろした。

 

そんな彼を見て、神々は僅かに違和感を覚える。

 

何かが足りない。

 

いつも彼の傍にある、いや、いる…

 

「はっ、師匠と一緒じゃないんですか!?」

 

真っ先に違和感の正体に気付いたユカ神が声を上げると、皆の動きが一瞬止まる。

 

が、直ぐに

 

「ゲドウちゃんはどうしたの?」

 

「一緒に来ないなんて珍しいね、喧嘩でもした?」

 

「いや遅れてくるだけじゃない?そうだよね、リピート神」

 

リピート神に問いかけた。

 

基本的に二人で行動しているイメージしかない神々からすれば、一緒にいないこの状態は異常事態と言えよう。

 

しかしリピート神は落ち着き払った様子でサンドイッチを咀嚼し飲み込むと、さらりととんでもないこと発言をした。

 

「先輩なら、今日は欠席するそうですよ」

 

――あのゲドウ神が?

 

紅茶と御茶会が好きなことで有名なゲドウ神が、これまで神々の御茶会を欠席したことは一度もない。

 

神々は信じられないというような表情でリピート神を見た。

 

皆の視線を受け、若干居心地悪そうに彼は苦笑すると「先輩にもいろいろあるんスよ」と続け、紅茶を啜った。

 

しかし『いろいろある』という理由で納得できる者は、残念なことにここにはいない。

 

「ねぇ、リピートちゃん。これは一大事よ。だってあのゲドウちゃんが御茶会を欠席するんですもの、それなりの理由がちゃんとあるのよね?私たちが納得できるように説明してちょうだい」

 

もしかしたら何か事件にでも巻き込まれているのかもしれないと、本気で心配になった紅茶神は真剣な声音で言う。

 

(やっぱりこうなるッスよね)

 

正直自分じゃ神たちを納得させられない、だがゲドウ神の許可を得ずに欠席する理由を言うわけにもいかず、リピート神は内心どうしたものかと頭を抱えたい気分になった。

 

「ちょっと皆、深く考えすぎじゃないッスか?先輩だって参加できないことあるッスよ。それに、これに関しては俺の口から言っていいのかわかんないんスよ。だからこれ以上聞かれても…」

 

「けど、もしゲドウちゃんに何かあったなら心配だわ。皆もそうよね?」

 

紅茶神が神々に訊ねると「そりゃあね」「心配じゃない訳ないだろ」と皆頷く。

 

「だから、ね?」

 

皆に詰め寄られ、良い言い訳も思いつかず困り果てたリピート神は、やがて観念したように溜め息を吐いた。

 

「うう…わかりましたよ。先輩がいるとこまで連れていくんで、あとは好きなように解釈してくださいッス。嗚呼、先輩にはくれぐれも見つからないようにしてくださいね」

 

 

***

 

 

とある一軒家の上空。

 

「あそこの、窓の方。見てくださいッス」

 

リピート神が二階の西側を指差すと、神々は目を凝らして窓の向こうの室内を見た。

 

「あれが、ゲドウ神が御茶会を欠席している理由なのかい?」

 

流石に宙に浮いているときまでは逆立ちをしていないサカダチ神が首を傾げると、リピート神は「そうッス」とだけ答える。

 

部屋には、目を閉じてベットに横たわっている人間らしき男と、男を傍で眺めているゲドウ神がいた。

 

「あの人、人間だよね。彼が寝てるのと欠席するの、どう関係があるの?」

 

「ノーコメント」

 

「あの人間とゲドウ神はどういう関係?」

 

「ノーコメント」

 

「むー、じゃあじゃあ…」

 

「ノーコメントッス」

 

「まだ何も言ってないよ」

 

ノーコメントを繰り返すリピート神にクズ神は若干むくれながら、視線をゲドウ神と人間の男に戻した。

 

クズ神の頬を人差し指で突きながら、ユカ神は名案を思い付いたように

 

「んん、見てるだけじゃ分からないですし、師匠に直接聞いた方が早くないですか?ね?てことでちょっと師匠のところに行ってきまーす!」

 

ひらひらと手を振りながらゲドウ神がいる方へ飛んで行ってしまった。

 

それを慌ててリピート神が止める。

 

「お孫様、マジ勘弁してくださいよ。あの家に皆を連れてきたことがバレたら俺多分消されるッスよ」

 

「大丈夫ですって、師匠は超絶優しいお外道様なんで、リピート神一人犠牲になればあとは見逃してくれるはず!」

 

「おいこら、何俺を犠牲にしてのうのうと自分は生きようとしてるんスか」

 

「ええ?だってリピート神ってそういう役割の神ですよね?ねぇ、ブログ神?」

 

突然話を振られたブログ神は返事をする代わりに、リピート神とユカ神の後ろに視線をやった。

 

ブログ神の視線の意味がよく分からず、二人は首を傾げつつ振り返ると

 

「大丈夫、君たちの犠牲は無駄にはしませんよ」

 

先程まで家の中にいたはずのゲドウ神が、にこにこ笑いながらそこにいた。

 

 

***

 

 

「それで?どうして皆さんお揃いでこんなところに?」

 

ゲドウ神が先程までいた家――霧谷家のリビングまで連れてこられた神々は各々ソファーや椅子に腰を下ろすと、視線をリピート神に「御前が説明しろ」と訴えた。

 

「あー…先輩が御茶会を欠席するって皆にちゃんと伝えたんスよ。そしたら案の定ちょっとした騒ぎになって、俺じゃ皆を納得させられる理由は言えないしどうしようって。で、とりあえず遠目から先輩の姿を見せて、各々好きなように解釈してもらおうってことでここまで案内した、というわけッス」

 

「成る程ねぇ…」

 

壁に凭れて腕を組んでいるゲドウ神の前で土下座しながら

 

「お仕置きされる覚悟なら出来てるッス…お願いしますっ」

 

「鬼畜なお仕置き希望です!お願いします!」

 

と懇願?しているリピート神とユカ神は放っておいて、紅茶神は申し訳なさそうな顔をした。

 

「突然押しかけちゃってごめんなさいね~。ゲドウちゃんに何かあったんじゃないかって心配になってしまって」

 

「別に構いませんよ。ただ、御茶会を欠席しただけでこんなことになるとは思っていませんでしたがね」

 

「だってゲドウちゃん、昔から何があっても御茶会だけは参加していたじゃない?なのに欠席だなんて…理由を教えてくれる?」

 

ゲドウ神は一瞬何かを思案するように口を閉じるも、直ぐに肩を竦め答えた。

 

「この家に住んでいる人間の体調が良くなさそうだったから、様子を見たかった。ただ、それだけですよ」

 

――神としての性質上、人間に対し非情であることが多いゲドウ神。

 

その彼女が、たった一人の人間の体調を気にかけているという。

 

一体あの青年との間に何があったというのか…問いかけたいが、そこまで踏み込んでいいものだろうかと神々は顔を見合わせた。

 

そんな彼等の様子を見て

 

「……。今から、とても長い独り言を言います。聞くも聞かぬも、皆さん次第」

 

ゲドウ神は椅子に腰掛けて、昔話を始めた。