■序章
「ケホッ…」
隣の部屋から聞こえてくる咳の音で、私は目を覚ました。
「……?」
ふわふわと扉まで飛んでいくと地面に両足をつけ、私が寝室に使っている部屋で寝息をたてている人間の少女を起こさないよう、静かに部屋を出た。
隣の部屋の扉を開けると、ベットの上で咳き込みながら身体を丸めている青年に近付く。
「…んん…」
小さく唸る青年の顔を覗き込むと、少し頬が赤い。
額にそっと掌を乗せてみた。
「微熱、ですね」
――人間とはなんと脆いものだろう。
私は肩を竦めると、一旦彼の部屋を出て同居人のリピート神を呼んだ。
「エド」
エド、というのはリピート神の名前…エドワードの愛称だ。
神々の前では「リピート神」と呼ぶが、二人でいるときにはこうして名前の方を呼んでいる。
私の呼び掛けに気付いたリピート神は「おはようございます、先輩。今日は早起きッスね~」っと、一階の階段下から顔をひょっこりと覗かせ笑った。
そんな彼の姿が大型犬のように見え、思わず笑みが零れてしまう。
「おはよう。エド、今日の御茶会は何時からでしたっけ?」
「確か…8時からッス。紅茶神が朝食を用意してるみたいッスよ」
「ふむ」
神々が朝から集まること自体は珍しくない。
だが朝から夜まで御茶会が開かれるのはごく稀のことで、昨夜までは参加するつもりでいた。
しかし…
「あの子たち、今日出掛けるって言ってましたよね」
「あー…そういえば一昨日くらいに言ってたッスね。コミケ?でしたっけ」
「そう、それ」
腕を組み何かを考える素振を見せると、リピート神は「どうしたんスか?」と不思議そうに首を傾げた。
「………。皆に、今日は欠席すると伝えてください」
問いかけには答えずそれだけ言うと青年の部屋に戻り、ベットの端に腰掛ける。
リピート神は驚いたように私を呼びながら後をついてきたが、青年の顔色を見て直ぐに「嗚呼、そういうことッスか」と納得したように呟いた。
午前八時過ぎ。
ゲドウ神とリピート神が棲み付いているこの家の住人たちを玄関先で見送ると、リピート神だけ神々の御茶会へと向かった。