■終章
「……ん…」
目蓋をゆっくり開けると、見慣れた天井が視界に入った。
深夜は過去の夢から醒めたのだと、ぼんやりとした頭で理解する。
まだ少し怠さが残る身体を動かして起き上がろうとした、そのとき。
「おはよう、深夜。お目覚めは如何?」
「………!」
夢の中で聞いたあの声が、すぐ傍から聞こえてきた。
声がした方へ視線を動かすと、女は深夜に微笑みかけて緩く首を傾げている。
「おや?しっかりと視えているようですね。深夜、私を覚えていますか?」
「…はい。お久し振りです」
「ふふ、久し振り。まぁ…私は御前の前に姿を見せたあの後もずっと近くにいたので、久しいという感覚はないのですけれどね」
「そう、だったんですね。…あの、助けていただき有難う御座いました」
女は一瞬目を見開いたが直ぐに「何のことだか」と微笑み、深夜の頭に手を伸ばして優しく撫でながら続けた。
「これからも、御前のことを見ていますよ。この私が傍にいる限り、何も恐れることはない。だから安心して、自分の思うように生きていくといい」
「…はい」
小さく頷き、ふと彼女の名を訊ねようと口を開きかけたとき。
扉の向こうから聞き覚えの無い男の声が響いた。
「せんぱーい、そろそろあの子たち帰ってくるッスよ」
「もうそんな時間ですか。分かりました、そっちは任せましたよ」
「了解ッス」
男の気配がなくなると、深夜は「あの方は?」と首を傾げた。
「ん?嗚呼…彼は私の後輩みたいなものです」
「後輩、ですか。ええっと、ということはあの方も普通の人には…」
「視えないでしょうねぇ。しかし、御前と日暮には視えると思いますよ」
「日暮も?じゃあ時々日暮がじっと何かを見ていたのって…」
「私たちがそこにいたから、ですね」
疑問が一つ解け、納得したように「成る程」と呟いたのとほぼ同時に、玄関の扉が開く音がした。
「帰ってきたみたいですね。私は少し出掛けます、あとは兄馬鹿の御前の弟たちに任せるとしよう」
そう言って窓を開け、そこから飛び降りようと足を窓枠にかけている女に慌ててもう一つ訊ねる。
「あの、貴女の御名前を窺ってもいいですか?」
「………。皆、私を外道の神…ゲドウ神と呼んでいる」
背を向けたまま答えると、女――ゲドウ神は振り返らずに窓枠から飛び降りて行ってしまった。
ゲドウ神を見送ると、深夜は何だかとても温かい気分でベットから下り、弟妹たちを出迎えに部屋を出た。