学生服を着た“僕”と夜明に微笑みかけ、その人は言う。

 

「深夜くん、夜明くん。これから宜しくね」

 

その人の後ろには少女が二人、立っている。

 

栗色の髪の少女は、これから家族として一緒に暮らすことになる義兄たちに興味津々といった風に、にこにこ笑いながらこちらを見ている。

 

もう一人の、白い髪と肌、そして赤い目が印象的な透明感のある少女は人見知りなのか、姉の後ろに隠れるようにして“僕”たちの様子を覗っていた。

 

「ほら、ご挨拶は?」

 

その人が少女たちにやんわりと促すと

 

「真昼でーす。よろしくね~、お兄ちゃんたち」

 

「…よろしく、…お願いしま、す…」

 

それぞれ“僕”たちに向かって少女たちは挨拶をした。

 

その瞬間…その人は一瞬、本当に一瞬だけ、冷ややかな目で彼女たちを睨んだ。

 

けれどもそれに気付いたのはきっと“僕”だけで。

 

瞬きをすると、その人の表情はもう戻っていた。

 

「夜明です。宜しくお願いします」

 

夜明は特にその人の変化に気付いた様子もなく軽く頭を下げ、“僕”もいつものように愛想笑いを浮かべて「深夜です。宜しくお願いしますね」と少女たちに声を掛けた。

 

「お兄ちゃんたち、凄いのよ?成績優秀で、運動や家事も出来て。自慢の息子たちだってお父さんが言ってたわ。それに比べ、あんたたちときたら…お兄ちゃんたちを見習って、もっといろいろ頑張らなきゃダメよ?」

 

(成る程。今は猫被ってるみたいですけど、多分こちらが本性なんでしょうね)

 

今度は夜明も気付いたようで、少し表情を強張らせた。

 

 

 

 

 

父親が再婚し、新しく“僕”たちの母親になるその人と、その人が連れてきた真昼、日暮と一緒に暮らすことになったのは確か…“僕”が高校二年生になって直ぐのことだった。

 

この辺りから断片的な過去の夢の中にいることに気付いた僕は、新しい場面に景色が切り替わろうとしている中

 

『出来れば、この先は見たくないですねぇ』

 

何とも言えない気分で、呟く。

 

けれどもここが夢の中ならば、目が覚めない限りきっと終わらないのだろう。

 

嗚呼、ほら。

 

次の過去が再生される。

 

 

***

 

 

真昼、日暮、そして彼女たちの母親と暮らすようになって二ヵ月経ったある日のこと。

 

“僕”の学校の不良たちを纏めているリーダー格であり、“僕”の幼馴染みの加藤 慧(カトウ ケイ)と他愛のない話をしながら下校していると、自宅の近所にある小さな公園の隅で複数人の少女たちに囲まれている義妹…日暮の姿が視界に入った。

 

「慧くん」

 

「ん?」

 

「あの子たちは何をしているんでしょう?」

 

慧は目を細めて少女たちを数秒見ると「囲んで良からぬことをしようとしてる風に見えるな」と答えた。

 

「ですよねぇ。囲まれてる子、うちの妹なんですよ」

 

「ふーん。俺が止めに行ってきてやろうか?」

 

「いえ、僕が行きましょう。ちょっと妹と話がしたいので、先に帰ってください」

 

「わかった」と素直に頷き背を向ける慧を見送ると、“僕”は妹に声を掛けた。

 

「日暮ちゃん、今帰りですか?」

 

「…深夜、兄さん…うん、今帰り…」

 

「そう、それじゃあ一緒に帰りましょう。…ところで、君たちは日暮ちゃんのお友達かな?」

 

突然現れた“僕”に驚いて固まっている少女たちに視線を移して微笑みかけると、彼女たちはバツが悪そうに互いに顔を見合わせる。

 

恐らく彼女たちのリーダーであろう少女が「友達、です」と少し震えた声で言った。

 

(嘘。君たちは日暮をいじめているんでしょう?)

 

人と見た目が違うというだけで異端と認識し、和から外そうとしている。

 

そんな風に、“僕”には見えていた。

 

だがそれを口にはせず、「そうですか。ふふ、これからも仲良くしてあげてくださいね」と少女の頭を撫でた。

 

バレていない、というように安堵の溜め息を洩らす彼女たちに微笑んだまま続ける。

 

「…君たちならきっと、良いお友達になってくれると…お兄さん、信じていますよ」

 

“僕”がどういう意味でそう言ったのか、分かっていないのだろう。

 

「はい!」「日暮ちゃん、また明日ね!」と言って走り去っていく少女たちに手を振ると、「さぁ、帰りましょうか」と日暮の手を取った。

 

「うん…あの、…ありがと…」

 

「ん?御礼を言われるようなことは何もしていませんよ」

 

「…それでも、ありがと」

 

「ふふ、どう致しまして」

 

 

 

 

 

家に着くと日暮と別れ、自室に入る。

 

扉を閉めると、“僕”は制服のポケットから携帯を取り出してある人物に電話を掛けた。

 

「おー深夜、どうした?」

 

「慧くん、君の妹さんって確か桜川中学の生徒で…ちょっとやんちゃな子だって前に話してくれましたよね」

 

「あー、言ったような言ってないような。それがどうかしたか?」

 

「いえね、僕の義理の妹たちも桜川中学の生徒なんですよ。で、ちょっとお願いがあるんですがいいですか?」

 

「おう、何でも言ってくれ」

 

ある人物…慧が電話越しで頷くと、“僕”は少し声を低くして、けれどもいつもの調子で用件を告げる。

 

「妹たちを、守ってください。手段は問わなくていいです。嗚呼でも、大事にならないようにね」

 

 

 

 

 

家の中では自分が上手く立ち回り、家の外では周りの人間を利用して間接的に弟妹たちを守る。

 

それが“僕”に出来ることであり正しいことだと、“僕”は信じて疑わなかった。

 

…否、少し違いますね。

 

『正しさ』だと、信じたかったのでしょう。

 

今思うと、僕は間違えていたのかもしれない。

 

けれども…考えて考えて、こうすることが最善であると答えを出したのです。

 

だったら、自分の出した答えを信じて、それを実行していくしかないでしょう?