「お帰りなさいませアクア様。いつもより早いお帰りですわね」
薔薇屋敷の常連客の一人、アクアが椅子に座るとメイド長の北條 美影が席まで来て御辞儀をした。
「うん、今日は特に予定が入ってなかったから、早く北條さんに会いたくて来ちゃった」
「ふふ、左様で御座いますか。御注文はいつもので宜しいですか?」
「ん、お願い」
「畏まりました。少々お待ちくださいませ」
美影は一旦下がると、厨房でロイヤルミルクティーとクッキーを用する。
「あら、珍しい。アクア様、今日はいつもより早く御帰宅されたんですね」
先に厨房に入って紅茶を淹れていたメイドの橘 刹那は、美影が用意しているものを見ただけで誰が来店しているのかわかったようだ。
美影はふふ、と笑って頷くと、トレーに用意したものを乗せてアクアの席に戻った。
少し機嫌の良さそうな彼女を見送った刹那もソーサーにティーカップを乗せて持つと、常連客の御嬢様の元へと向かった。
***
「お待たせしました、アールグレイです。少しカップが熱くなっておりますので、お気をつけくださいませ」
御嬢様――望叶の前にティーカップを置くと、刹那は御辞儀をして下がる。
刹那と入れ替わるように、執事の橘 綾斗が一歩前に進み出て御辞儀をした。
「望叶御嬢様、本日は何時にお出掛けなさるご予定で?」
「んー、特には決めてないかな。あ、ねぇねぇ橘さん。あの御主人様って、この前のイベントでロゼさんに女装させられてた人だよね?」
紅茶を一口飲むと、望叶は斜め前の席に座って美影と談笑している男性客、アクアに視線を向ける。
ロゼさん、というのは深夜の妹、霧谷 日暮の此処での名前だ。
一週間ほど前に行われた薔薇屋敷の性転換イベントで、アクアはロゼにゴシックテイストのワンピースを着せられていた。
「嗚呼、アクア様ですね。えぇ、ロゼ様に全身プロデュースされたのはあの方です。女装なさった御主人様方の中で、アクア様が一番お綺麗でしたね」
イベントでのことを思い出し、クスリと笑う綾斗に相槌を打ちながら美影とアクアの方を眺め、望叶は内心で呟く。
(この喫茶店って、使用人さんだけでなく御客さんも面白い人多いよね)
そんなこの喫茶店が、望叶は大好きなのであった。