「おかえりなさいませ、御嬢様」
此処は、誰でも気軽に執事とメイドの給仕を受けることが出来る喫茶店――『使用人喫茶-薔薇屋敷-』
そこに、ある一人の女性客が“御帰宅”した。
「初めまして、御嬢様。私、当屋敷の執事長を務めております、霧谷と申します。宜しく御願い致します」
霧谷と名乗った燕尾服の青年、霧谷 深夜はそう挨拶をした後、礼儀正しく御辞儀をした。
「あ、初めまして…らくとです。宜しくお願いします…」
こういう場所に一度も訪れたことがないらくとは、若干人見知りを発動させながらも何とか挨拶をする。
「御注文がお決まりでしたら窺いますよ」
「え、っと…どうしようかな…そ、それじゃあ、“執事のオススメメニュー”を御願いします」
「畏まりました。少々お待ちくださいませ」
瞬時にらくとがとてつもなく緊張していることを察した深夜は、厨房へ向かうとダージリンとアップルパイを用意し、直ぐに彼女の元に戻った。
「お待たせしました。“執事のオススメメニュー”の紅茶とアップルパイです。本日はリラックス作用のあるダージリンのストレートティーを御用意致しました。砂糖とミルクは此方に置いておきますので、お好みでどうぞ」
無駄のない動作でティーカップや皿をテーブル上に置いていく深夜の様子をじっと見ていたらくとは、ふとあることに気付き首を傾げる。
「リラックス作用…あの、もしかして私が凄く緊張してるの分かってて、淹れてくれたんですか?」
「はい。御帰宅されてからずっとお顔が強張っていらっしゃいましたので……。此処は、御嬢様の御屋敷です。どうぞ、ごゆるりと御寛ぎくださいませ」
ゆるりと微笑んでみせる目の前の執事に、らくとは少し肩の力が抜けるのを感じた。
(執事さんって凄いんだなぁ…)
感心しながら紅茶を飲んでいると、深夜の後ろからひょっこりと別の執事が現れ
「御嬢様、まだちょっと緊張してますね?そんな御嬢様の紅茶とお菓子に、美味しくなる魔法をかけて差し上げましょうか?…執事長が!」
らくとにいたずらっぽく笑いかけた。
そんな彼に、深夜は肩を竦め「おやおや、そこは“俺が”って言うところでしょう?伊月君」とすかさずツッコむ。
「いやだって、執事長の魔法ってキャラ崩壊もいいとこじゃないですか」
「私はキャラ崩壊を恐れない執事なのです」
「何それ、執事長強い」
二人のやり取りを静かに傍観していたらくとは、何だか可笑しくてクスリと思わず笑ってしまった。
それに気付いた伊月 奏は
「お、御嬢様やっと笑いましたね。強張った顔よりもそっちの方がいいですよ」
親指をぐっと立て、「それじゃあ俺は他の御嬢様の御相手をしてくるので、これで失礼しますね」と御辞儀し、別の席に行った。
深夜はそんな彼を見送ると、らくとの方を向いて首を傾げる。
「御嬢様、宜しければ少し私と雑談でも如何ですか?」
「はい、是非。御話しましょう」
この後、“お出掛け”の時間までらくとは薔薇屋敷の使用人達と楽しい一時を過ごし…
「行ってらっしゃいませ、御嬢様。またの御帰宅を、心よりお待ちしております」
何だか幸せな気持ちで、屋敷を後にした。