「ねぇ、刹那ちゃん」

 

学校から帰宅し、制服のままリビングのソファーに寝転がってぼーっとしている刹那の様子を眺めながら洗濯物を畳んでいた綾斗は、ある疑問が浮かび声を掛けた。

 

声を掛けられた刹那は気怠そうに「…なに」とだけ返事をする。

 

彼女の反応はいつもこんな感じなので、綾斗は特に気にせず訊ねてみた。


「中学のときは制服、どうしてたの?」

「どういうこと?」

 

綾斗の質問の意味がいまいちよくわからず聞き返すと


「んー、今みたいに男子制服着てたのかなって」

 

ゆるりと首を傾げられた。

 

刹那が通っている高校は女子生徒が男子制服を着用するのを許可している、少し珍しい学校だ。

 

そのため、動きやすいし冬は足が寒くないと、刹那は入学当初から男子制服のブレザーをずっと着ている。

 

質問の意味を理解した刹那は「女子の制服、着てたよ」と答え、ごろんとうつ伏せの体勢になった。

「そうなんだ。ブレザー?それともセーラー服?」 

 

「……。セーラー、だったかな」 

 

「セーラー…!」

 

親が再婚し、刹那に出会ったのは彼女が中学を卒業した後だったため、セーラー服姿の刹那を見たことがない綾斗は目を輝かせて妹の傍に寄った。

 

「セーラー刹那ちゃん、見たいなぁ」

「………」

 

「お兄ちゃんの為に、着てくれないかなぁ」


「………」

刹那はむくりと起き上がると、溜め息を吐きながらリビングを後にした。

 

(着替えに行ってくれたのかな?)


何も言わず、溜め息だけを残し行ってしまった妹。

 

彼女のことだ、「仕方ないなぁ」とセーラー服に着替えに行ったのだろうと思い、暫くじっと刹那が戻ってくるのを待った。

 

 

***

 

 

数分後。

 

「これでいい?」

 

わくわくしながら待っていると、セーラー服を纏った刹那が戻ってきた。

 

「天使だ、天使が降臨した…!」

 

予想以上に可愛い妹の姿に、デレデレしながら写メを撮り始める綾斗。

 

しかし直ぐに、スマホから刹那に視線を移すと

 

「刹那ちゃん、ちょっとソファーに座ってくれる?」

 

ポケットから折り畳み式の櫛を取り出してみせた。

 

刹那が座ったのを確認すると、綾斗は背後に回り込んで彼女の髪に結ばれたリボンを解いた。

 

「セーラー服だと、髪は高い位置に結んだ方がもっと可愛いかも」

そうして、あっという間にポニーテールに結ばれた刹那は落ち着かない様子で首に触れる。

 

「スースーする…」
 

「刹那ちゃん、いつも下の方で結んでるもんね。…はぁ、刹那ちゃん尊い、可愛すぎて心臓痛い、もう無理辛い」

 

女の子らしさが増した刹那を見て一人悶えている綾斗を横目に、気恥ずかしさを誤魔化すように呟いた。


「前々から思ってたけど、兄さん馬鹿なの…」
 

その呟きが兄の耳に届くことはなかった。