コトコトコト……
 
キッチンで鍋の中身をじっくり煮込んでいる、一人の少女。
 
「そろそろかな」
 
蓋を取り、おたまで中のものを軽くかき混ぜると彼女は満足気に笑った。
 
「ただいま、刹那ちゃん」
 
「…おかえり、綾斗兄さん」
 
料理に集中していたせいか、兄が声を掛けてくるまで気付かなかった刹那は一拍遅れて言葉を返すと、受け皿に一口入れて兄に渡す。
 
「僕は味見出来ないから、兄さん味見係」
 
「はーい」
 
兄、綾斗は刹那とは違う特殊嗜好を持っている。
 
彼は普通の食材を使った料理よりも、人間の部位を食材として使った料理を好む…所謂、カニバリストというやつだ。
 
綾斗曰く、普通の料理は食べても味がわからず、気持ち悪くなってすぐ吐き出したくなるらしい。
 
そんな兄の為に刹那は毎日、彼が闇ルートで仕入れたであろう人肉を使って、彼だけの特別な食事を作っている。
 
勿論食人行為が犯罪なのは理解しているが、たまたま彼の特殊嗜好がそれだっただけであり、刹那にとっては犯罪とか道徳とかそういったものはどうでも良かった。
 
綾斗は受け皿に入れられたスープのような液体を飲むと「シチューかな?いつも通り、凄く美味しいよ」と微笑むと、ぎゅうっと後ろから抱き締めて囁いた。
 
「いつも俺のために美味しいご飯を作ってくれて、ありがとう」
 
「どう致しまして」
 
自分はカニバリストではないため、味見が出来ず毎日苦労するけれど。
 
こうして素直に御礼を言ってくれる兄のためなら、どんなものでも作ってあげたいと刹那は密かに思っていた。
 
 
 
 
 
今日の橘家の夕食は、シチューとオムレツ。
 
綾斗の皿上の料理は、特別製。