それは、彼女の一言から全ては始まった。
「…壁ドン、て…どうしてやるの…」
ある昼下がりのこと。
霧谷家の末っ子、日暮は少女漫画に度々出てくる“壁ドン”の意味について、兄の一人である夜明に訊ねた。
「壁ドン?相手を壁まで追い詰めて恐喝、或いは告白するあれのことか?」
「兄さん…それ、違わないけど…違う」
「…で、その壁ドンが何だって?」
「ん…巷で人気みたい、だけどね…正直、壁ドンの良さが分からない…やる意味ない、でしょ…」
すると夜明は頷き
「嗚呼、俺も良さはいまいち分からない」
日暮に同意した。
そんな二人の会話を、洗濯物を畳みながらずっと聞いていた深夜と真昼は顔を見合わせ
「だったら、壁ドンする側、される側を体験してみては?」
「そうそう。そしたら良さが分かるかもよ~?」
何か悪戯を企んでいるような笑みを浮かべて提案する。
こうして、第一回霧谷家壁ドン選手権が開催されることになった。
***
「ではこのクジを引いてください」
割り箸を四本握って、深夜は弟妹達に差し出す。
「四本のうち、二本赤色を塗っています」
「それを引いた人はする側かされる側かも書いているので、確認してからやってくださいね」
深夜の説明に三人は頷くと、四人同時に割り箸を引いた。
「あ、あたし赤!ドンする側だ~」
「…俺も赤だ。される側、か」
①真昼×夜明
「それでは、張り切ってどうぞ」
「…深夜兄さん、ノリノリ…どうぞ…」
楽しそうな長男を横目に、正面で先程からによによしている真昼に「俺は立ってればいいんだな」と訊ねた。
「うんうん、夜明たんは立ってるだけでいいよぉ」
「………」
すると突然ドン、と壁に手をつき、真昼は夜明を見上げた。
「夜明兄さんさぁ、鈍過ぎだよ。そろそろあたしの気持ちに気付いても良いんじゃない?」
「は…?ど、どうした真昼」
普段の口調や雰囲気と少し違うことに戸惑いを隠せない夜明。
一方真昼は真剣な表情で続ける。
「どうした、じゃないよぉ…まぁ、鈍いとこも可愛くて好きだけどね~」
「え、…んん?」
「………。きゃはっ、夜明たん戸惑いすぎだよ~」
「面白いものが見られて御兄様は満足です」
「僕も、満足…」