「あら、何かしらこれ」
リビングを掃除していると、テーブルの上に置かれている二冊ノートに目が留まり紅茶神は首を傾げた。
手に取って表紙を見ると、どちらのノートにも『Grimoire(グリモワール)』とだけ書かれてある。
グリモワール。
それは、魔術師や魔女、悪魔などの類が持つ魔導書のこと。
しかし、大きさや厚み、表紙の見た目はただの大学ノートのようだった。
「これ…あの二人のかしら?」
あの二人、というのはクズ神とカス神のことだ。
姉弟が地上に降りてまだ間もない頃、二人だけでまともな生活が送れるか心配だった紅茶神は自分が住んでいるとある高級マンションの一室に連れて行き、今日までずっと面倒を見ている。
そのため、時々こうして二人の私物と思われるものを部屋の中で見つけるのだが。
「可笑しなものばかり持ってるわよねぇ。あの子達の将来が時々心配になるわ~」
などと呟きつつ、勝手に人のものを見るのは良くないと元の場所にそれらを置いて掃除を再開した。
***
「あ、ここにあったんだ」
「どうりで俺達の部屋を探しても見つからないはずだよ」
午後二時過ぎ。
カス神とクズ神は昨日の夜からずっと探していたノートを見つけ手にすると、顔を見合わせて…お互いのノートを交換した。
「今週の成果を発表!」
「まずはカス神のグリモワールからね」
クズ神は弟のグリモワール----もとい大学ノートを開くと“成果”を黙読し始めた。
カス神のグリモワール.
○月×日
今日の観察対象はサカダチ神。
一日の殆どを逆立ちで過ごしていた。
着替えるときも逆立ちしたままって凄いよね。
でも、流石に食事を作るときと食べるとき、風呂の時間は普通だった。
トイレだけは確認出来ていない。
どうなってるんだろう、気になる。
○月×日
今日の観察対象はエンド神。
彼っていつも雰囲気暗いよね。
だからてっきり住処は廃病院とか廃トンネルとかだと思っていたら違った。
俺達が住んでるところよりは安いと思うけど、それでも綺麗で良さげなマンションに住んでた。
趣味なのかクラシック?みたいな音楽をずっとかけてた。
料理は人並みに出来るらしい、地味に美味しそうなのが腹立った。
***
「へぇ…この二人を観察してたんだ。ていうかエンド神普通に人に混じって生活してたんだね」
「そうなの!吃驚だよね。じゃあ次はクズ神のグリモワール読ませてもらうよ」
クズ神のグリモワール.
○月×日~△日
[観察対象] ブログ神
暗い部屋に引きこもって怠惰な生活を送っているのかと思ったら、朝早くに起きて近所の公園で子どもに混じってラジオ体操をしていた。
家に戻ったら同居人?のユカ神を起こして朝食。
昼間はPCをいじったりユカ神と会話をしたりするくらいで、特に変わった行動はラジオ体操以外に見られなかった。
就寝時間は毎日二十二時、健康的だ。
***
「今週はブログ神をずっと観察してたんだ。…あれ?でも前リピート神にするって言ってなかった?」
「そのつもりだったんだけど、播かれちゃって」
「成る程。ゲドウ神を観察してたらリピート神もいて、一石二鳥だったんじゃない?」
姉のノートをぱたりと閉じて首を傾げるカス神に、クズ神は横に首を振って「ゲドウ神にも播かれた」と苦笑した。
「二人を観察するのは難しい」
「そっか。俺、今度挑戦してみようかな」
(…あのノート、神の観察日記だったみたいね)
姉弟の会話を密かにリビングの外から聞いていた紅茶神はやれやれ、といった風に肩を竦めて夕食の買い物に出掛けて行った。