初日の「雨あがる」を観た。私は国立劇場の建物を外からしか見たことがなく、中へ入ったのも初めてだったし、舞台へ続く花道も近くで見るのは初めてで、久しぶりの観劇にドキドキ、キョロキョロしていた。

私の席はその花道近くで4列目。幕が上がって程なく、松原健之さん(写真右)扮する「渡り芸人与十郎」が娘・おはな(中野里咲さん)と共に妻・おこう(横澤寛美さん)に引っ張られるように花道を駆けて行った。尻にひかれた亭主ぶりが可笑しかった。

劇が進むにつれて無言で舞台を通り過ぎる謎の男の正体が明らかになって行くのだけれど、この謎の男「相川屋庄吉」を演じる中嶋宏太郎さん(写真左)の花道上での迫真の演技を幸せなことに間近で見る事ができた。「役者って凄い!」と思った。

私は粗ひと月の間、この舞台「雨あがる」の主題歌「悲しみの旅人よ」を聴き続けている。単に「歌謡曲」として聴いても良い曲、心に沁みる歌だと思うけれど、舞台「雨あがる」の主題歌として聴くと更に心の奥底まで響いて来るように感じる。主役の三沢伊兵衛(早瀬栄之丞さん)と妻たよ(浜名実貴さん)夫婦の会話や、酌婦おろく(上沢美咲さん)の独白等を聞いていると、この歌の歌詞が浮かび、メロディーに乗って心に迫る。作詞の石原信一先生は、きっとこの物語がお好きなのだろう、などと想像してしまう。

少し前、「悲しみの旅人よ」の客観的な評が欲しくて紹介した方から「松原氏の歌は漢方薬のように徐々に効いてくる歌が多いが、この歌は医師の処方箋薬のようだ」と。悲しみや辛さに忍従している人たちに医師がニッコリ微笑んで渡す処方薬のように効くのではないか、という評を頂いた。そうであって欲しい!